この物語はフィクションであり実在の人物・団体・事件等には全く関係ありません。
内容に暴力的な表現やモラルに反することetc…が少々描かれていますが、
現実社会で実際に同じような行動・言動をすると容赦なく訴えられたり捕まったり
それはもう大変なことになるので悪い子も良い大人も絶対マネをしないで下さい。
彼等の活動を見て正義の味方に対するイメージが変わっても責任は取れません。








 では今日の授業はここまで。起立、礼、ありがとうございました。
 終業のチャイムが鳴りちっとも気持ちの籠っていない挨拶を済ませると、英和にとって難儀な時間が始まる。
「ヒデー、部活行こうぜ」
「悪い、オレ今日から課外なんだわ」
「あーそっか、特別課外ね。そういやそんなこと言ってたっけな。うらやましいよなぁ」
 じゃ、頑張れよ〜。と同じクラスで同じ部活の吉弘に言われ、英和はこっそり溜め息を吐いた。
 特別課外とは表向きこそ文武両道な生徒を育成する為に各部活のトップを集めた勉強会という素晴らしい目的を持ったものになっているが、実際はギャグとしか思えないようなヒーロー活動なのだから笑えない。
「鈴木」
「ハイハイ行きますよ逃げませんよ」
 やはり同じクラスの逢沢に声をかけられて席を立つ。
 クラスの、……いや、学校中の生徒と教職員にクールでカッコいいサッカー部のエースと思われているコイツが世にも阿呆な戦隊ヒーローの一員であるだなんて誰も想像しないだろう。オレだってしなかったさ。英和は呟く。
 イメージの崩壊というものがどれ程の衝撃を伴うものなのか、今回の件で英和は嫌というほど体感した。
 言ってみればそれは、金メダルを取ったスキージャンパーが高所恐怖症だったとか、知性派で有名な俳優が実は小学生並に一般常識に疎かったとか、天然がウリのアイドルが元ヤンだったとかすら生温く感じる位の衝撃だった。少なくとも英和にとっては。
 それでもそれが事実なのだったら受け入れるしかないのだから現実とは非情なものだ。
 逢沢に連れられて英和が向かったのは小会議室。先日胴上げの状態で連れてこられた部屋である。
 ドアを開けて中に入るとそこには既に柿崎と炭谷が居た。
 彼等も逢沢と同じで、学校中の生徒と教職員の羨望の眼差しを受ける立場なのだが、まあ当然というか、やっぱり阿呆くさい戦隊ヒーローの一員である。
「全員揃った所で早速やるか」
「そうだな」
 リーダーである柿崎が声をかけ何事かを促す。
 何事か、といっても勉強ではない。『特別課外』という名目で呼ばれてはいるが実際は違うのだから。
 さて実際に何をやるのかだが、単刀直入に言えば着替えである。もちろん制服からヒーロースーツへの。
 そう、考えてみれば当然なのだ。テレビで見る戦隊ヒーローのように怪人が現れてから一瞬で着替えるなんて芸当、出来る訳がない。
 現時点での人類の科学力を考えれば完全にオーバーテクノロジーだ。一介の学生がヒョイヒョイ使えるはずがない。いや、使えてたまるか。
「コレがお前のスーツだ」
「あー……、ありがとう」
 要らないけど。そう内心で付け加えて英和は緑色をしたヒーロースーツを柿崎から受け取った。
 渡されたスーツを机の上に広げ、マジマジと見る。
 ツナギ状になっているとばかり思っていたスーツだが、実際に見てみると上衣と下衣に分かれていた。
「嬉しいのは分かるが、時間がないからサッサと着替えろよ」
 炭谷に促されて適当に返答し、スーツに袖を通す。別に物珍しいだけで全く嬉しくなんてないが。
 ピッタリ、という程ではないが身体にフィットしたスーツは確かに動きやすそうだ。
 上衣と下衣の繋ぎ目は幅広のベルトを締めると見えなくなった。おまけに両方とも腰を覆う部分が長めに作られているので激しい動きをしても素肌が見えるなんてことは無さそうだ。
 なるほどねー誰が作ったんだか知らないけどよく考えられてるんだ、と感心する。どうして自分にピッタリのサイズなのかは敢えて考えない。
 しかし、
「モソモソ着替えるヒーローってのは予想以上に絵にならねぇなぁ……」
 やっぱりヒーローというのは一瞬で変身してこそだな、と改めて思う。
 なんだか遊園地やデパートの屋上でやっている戦隊ヒーローショーの裏側を見てしまったようで微妙な気分だ。
「? 何か言ったか?」
「いーえー、何にもー」
 にっこりと擬音が聞こえそうな笑顔を付けて言うと柿崎は特に疑問を持った様子もなく自分の着替えに戻っていった。
 全員が着替え終わった頃、見計らったように上原……いやグラさんが現れた。
「あら、良く似合ってるわよ、グリーン」
「どこからどう見ても列記としたヒーローだな!」
「アリガトウゴザイマス」
 グラさんを筆頭に褒めまわしてくれる面々だが、こんなもんが似合って嬉しくなんてあるもんか。
 大体似合うも何もないだろコレ。相当悪役顔でない限り似合うと思うんだオレ。
 そういえば最近現実逃避にどうでも良いことをグダグダと考えるようになったなぁ、むしろ現実逃避の頻度が増えたなぁとどこか他人事のように思う英和だった。
「さあ、今日の任務だけれど、いつも通り校内にはびこる悪の駆逐と残る1人の仲間の捜索よ」
 役者でもない人間には素面でなんてとても言えないだろう台詞をサラっと言うグラさんは色んな意味ですごいと英和は思う。
 なんというか今更だが毎日こんな事してる割に学内でこの戦隊ヒーローが全く話題にならないのが不思議で仕方がない。
 あんな暴力行為(恐らく絶対に正当防衛というものは認められないし第一『防衛』ではない)を繰り広げているクセに知名度が全く無いというのは些か不自然だ。
 ……まあ、校長が関わっている以上ヘタなことは出来ないのかもしれないが。案外サクッと口封じ…成績下降とか留年とか停学とか退学とか色々やられるかもしれないし。と無理矢理納得してみる。その時点で既に正義の味方が取る手段ではないがそれこそ今更だろう。
「それと、グリーンに活動内容をしっかり教えてあげてね」
 ああ別に知りたくないんで結構です。
「勿論、この上ないほど完璧に教えますから」
 大体教えることって不良をボコボコにする位なんじゃないのか。
「これから頑張ろうな、グリーン!」
「何か困った事があれば遠慮せず言え」
「ええそうですねよろしくお願いします」
 困ったことは今現在のこの状況です。
 言いたいことを全て己の胸の内に飲み込んだ自分自身を褒めてやりたいと英和は思っていた。きっとこの時間が終われば良く耐え切ったと思うはずだ。
「あ、それからコレを」
 そういうとグラさんは脇に抱えていた紙束を英和に渡した。
 相当な量があるが、一体なんなのだろうか。まさか隊則や入隊の為の書類という訳ではあるまい。
「なんですかコレ?」
「宿題よ」
 アレ? 今ものすごくありふれた日常的な言葉が聞こえた気がするんですが。シュクダイ? 宿題って言ったのこの人? 今この場に最も似つかわしくない言葉じゃないかそれ? 今一気に自分が健全な学生であることを思い出したよ唐突に。ていうか何で宿題? 何、正しいヒーローになる為の宿題とか? うわなにそれ自分で言っておかしいと思ったよオレの頭も相当やられてきたかなコレ。
 現実逃避をしている英和にグラさんがこう告げる。
「貴方達を『特別課外』と称して部活の時間を使って呼び出している以上、勉強に対して何もしない訳にはいかないの」
 確かに『文武両道な生徒を育成する為に各部活のトップを集めた勉強会』なのだから学力が変わらないという事態はマズイのだろう。何より学校的に。生憎ココは私立高校だ。
「月曜日にソレを貰って、自分でこなすんだ」
「提出期限は翌週の月曜日」
「間に合わなければオレ達の活動とは別の時間にマスク司令官とマンツーマンで授業な」
 中身をパラパラと捲ってみれば各教科(ご丁寧に英和の選択した教科ばかり揃えられている)の問題がびっしりプリントされているのが分かった。しかもそう簡単に解けるような難易度では無さそうだ。
 しかも提出期限に間に合わなければ校長もといマスク司令官とマンツーマンで授業だなんて冗談じゃない!
「……頑張ります」
 これは本当に頑張るしか無さそうだ。
 ただでさえ部活の時間が限られてしまっていて、その遅れを取り返すだけでもハードになのに勉強もプラスされるなんて。
「ではグラさんの説明も終わった所で、校内の見回りに行こうではないか!」
 やけにノリノリなレッドブルーブラックの3人を見て、「コイツ等は確かにエース級なのかもしれない。色んな意味で」と思う英和だった。





この学校はオレに何を求めているんだろうか。



ヒーローはともかくとして文武両道はどうやら本当に実現させる気です。