この物語はフィクションであり実在の人物・団体・事件等には全く関係ありません。
内容に世間ズレした発言やモラルに反することetc…が少々描かれていますが、
現実社会で実際に同じような発言・行動をすると遠慮なく白い目で見られたり呆れられたり
それはもう大変なことになるので良い子も良い大人も絶対マネをしないで下さい。
彼等を見て本当に正義の味方なんだろうかと疑問を持たれても仕方ありません。








 とある私立高校の1階にある調理室の中庭に面した方の窓の下にピッタリ張り付いて中の様子をコッソリ窺っているのは、変質者ではなく学校が誇る各部活動のエースたちである。
 具体的にいえば、野球部の4番バッターとサッカー部のストライカーとバレー部のエースアタッカーと卓球部の常勝部長の4人だ。
 さらに言えば4人が4人とも色は違えど同じヒーロースーツを身に纏っている。一応付け加えておくがそんな格好をしているのは彼等自身の趣味の為ではない。多分。
「……で、何でこんな所でコソコソしてるんだよ」
 彼等がヒーロースーツを着ているのは彼等がヒーローそのものだからであり、ヒーローとは悪を挫き弱きを助けるものだという信念から校内に存在する悪を駆逐する為……の筈なのだが。
「腹が減っては戦は出来ぬと言うだろうが」
「ここでコソコソしてても何も貰えないだろう、普通」
 4番バッターの柿崎もといレッドの言葉に、すかさず常勝部長の英和もといグリーンが突っ込む。
 そりゃあ此処に居る面々は各部のエース達ばかりだから(ヒーロースーツを脱いで)彼女等の前に姿を見せれば差し入れに何か貰えるかも知れないが、隠れているんだから流石にそれは無理だろう。
「違うぞレッド、確かにその通りだがここでこうして身を潜めているのは5人目の仲間探しの為だろう」
「そうだ、調査以外の目的は無い筈だろう」
 ストライカーの逢沢もといブルーとエースアタッカーの炭谷もといブラックが言う。
 いやそんな尤もらしく言っても腹が鳴ってたら台無しだから。と今度は内心でグリーン……英和は突っ込んだ。
 確かに高校2年生といえば食べ盛りで特にこのメンツは運動量も多いのだからカロリー消費も多いのだろうが、ここでコソコソ料理部の活動を盗み見ていても腹が満たされるとは思えない。
 これではただの変態だ(この格好からしてそうではないと言い切れないが)。
「やっぱり料理の出来る隊員っていうのは良いよな」
「集まった時に差し入れとか持って来てくれそうだしな」
「ここはやっぱり料理部から1人……」
「だー! ちょっと待てっつーの!」
 3人から少し離れた場所に座っていた英和はスライディングして(中の子達に見られたらエライことだ)密談に割り込んだ。
「料理部ってなんだよ?! お前等『球技戦隊』じゃねーのかよ!」
 無理矢理このヒーローに引き込まれたとはいえ、そこはさすがに見過ごしてはおけなかった。
 だって『球技戦隊』と銘打ってあるのに料理部って。
「いや、まあ、そうだが、『部活戦隊』にすれば解決じゃないか?」
「そうだな」
「問題ない」
「大有りだってのボケが!」
 英和自身が首尾一貫しないことが嫌いな性分だというのもあるのだが、自らの腹を満たす為だけにそれは酷すぎるだろう。
 巻き込まれた身で言うのも何だが、そこは譲ってはいけない一線だ。絶対に。
「では聞くが何か他に良い案でもあるのか? グリーン」
 レッド(変身後は本名ではなくそう呼ばなければならないらしい)が偉そうにそう言い、そうだそうだとでも言いたげにブルーとブラックが頷く。
「別に料理部である必要はねーだろーが!」
「ならグリーンは差し入れが無くても良いのか?」
 そりゃあ差し入れがあるのと無いのとではあった方が嬉しいに決まってるだろ! と思うが口には出さない。出したら確実に付け込まれる。
「とにかくメシから離れろっつーの!」
 英和が(ヒーローのくせに)すっかり食欲魔人と化した3人をどうにかこうにか調理室の窓下から引き剥がそうとしていると、かすかに悲鳴が聞こえた。
 今まで散々駄々を捏ねていたのに、悲鳴が聞こえた途端目つきを変えて悲鳴が聞こえた辺りに向かって駆け出すのは流石というか。
 一応ヒーローとしての自覚はあるんだ、と冷めた感覚で英明は思う。
 さて走る事30秒、英和たち4人は部室横の目立たない場所に居た。何故ならそこから悲鳴が聞こえたからだ。
 どうして悲鳴の発生源が瞬時に分かるのかという至極尤もであり現実的な疑問には『企業秘密』若しくは『大人の都合』とだけ答えさせて頂こう。
「ちょーっと待ったー!」
 状況的にはテニスラケットを手に持った女生徒を不良学生が襲っているというものだ。まあ、どちらが悪人なのかは言うまでもないな、と英和は思う。
「野球レッド!」
「サッカーブルー!」
「バレーブラック!」
「た、卓球グリーン! 以下略!」
「5人揃って、球技戦隊エースレンジャー!」
 TV番組だったら背景で花火が炸裂してドーンとか音が鳴ってるんだろうお約束の自己紹介をする。
 この自己紹介は顔が見えないくせにすごく恥ずかしい。既に何度か実際に不良に対峙して言ったこともあるのだが、その度に英和は顔が赤くなるのを自覚する。正確に言うと、自己紹介というより以下略の方が恥ずかしいのだが。
 そんなヒーローたちの自己紹介を律儀に聞き終えた不良がこちらに向かって走り寄って来た。
 初めてこのヒーローたちに遭遇した時から思っていたのだが、どうもこの自己紹介には不良を煽る効果か何かがあるらしい。毎回毎回同じ軌跡を描いて殴りかかってくる不良を見る度に英和はそう思う。実際のところどうなのかは知らないが。
「必殺! 野球アタック!」
 レッドがまたもどこからかバットを取り出し(どこから出しているのかは聞くまいと英和は心に決めている)、例の如く躊躇いなど全く無しでフルスイングをした。当然ガッチリ頭の芯を捉えている。
「必殺! サッカーアタック!」
 続いてブルーが物凄い勢いで相手の急所を蹴り上げた。正直、レッドの攻撃よりずっとブルーの攻撃の方が酷いと英和は思う。よくも躊躇せずにあそこまで出来るものだ。
「必殺! バレーアタック!」
 ブルーの攻撃を喰らった直後の不良の脳天をブラックが遠慮無く打ち抜く。もちろん素手でだが、渾身の力+体重が乗っているので威力は相当だろう。
「必殺……、卓球アタック!」
 とどめとばかりに、多少躊躇いつつ英和が繰り出したのは相手のアゴをピンポン玉に見立てて腕を振りぬくパンチだ。
 本当は卓球のラケットの使用を進められたのだが、断固拒否した。ついでに言うなら相手のアゴをパンチするのは卓球ではなくむしろボクシングだ、と思ったのだがもう色々と面倒くさいので突っ込まないでおいた。
 さて哀れな不良だが、怒涛の4連続攻撃を受けてその場に倒れこんだ。まあ、当然だが。
「やあ君、危ないところだったね」
 ヘルメットをしている為に表情は分からないが恐らくにこやかに笑っているのだろうレッドが女生徒に手を差し出した。
 アレ、オレこの展開どこかで見たような気がするんだけど。
「あ、ありがとうございます」
 ほらー、困ってんじゃん。女の子困らせんなよ、と英和は内心突っ込んだが、そういう自分も変態…もとい戦隊ヒーローの一員なのだと気付いて落胆する。どうしてこんなことになったんだろう……。
「あ、君の部活は?」
「あの、部というか同好会なんですけど……」
「そのラケット使うの?」
「はい…」
「そこで一番強いのは?」
「一応、私ですけど」
 人知れず英和が落ち込んでいる間に、やはりどこかで聞いたような会話が交わされる。
 この調子で行くと彼女もまた有無を言わさずこの戦隊ヒーローに加入という事になるのだろう。
「ようこそ、球技戦隊エースレンジャーへ!」
「今日から君はホワイトだ!」
「これで本当に5人揃ったな!」
 ああやっぱり。英和は女生徒に同情する。こんな訳の分からないものに巻き込まれちゃって可哀相に…。
「本当ですか?! ありがとうございます! 嬉しいです!」
 え?! 何、快諾?! っていうか嬉しいの?! 嘘?! 嘘だよね?!!
「いやー、オレ達も嬉しいよ」
「ところで君は料理なんかは出来るかい?」
「はい! 料理とかお菓子作りは好きなので! 宜しければ今度持ってきましょうか?」
「是非頼むよ!」
 え、ちょっと何普通に会話してんの? オレの時は有無を言わさず胴上げ輸送だったじゃん! と英和は突っ込むが誰一人聞いてなどいない。その様子にやるせなさを感じ、追い討ちをかけるようにドッと疲労感が押し寄せる。
 あーもう何なんだよお前等!!
 皆がおかしいのか自分がおかしいのか分からなくなってきた英和だった。





揃っちゃったよ!っていうかこれで良いのか戦隊ヒーロー!



本人たちが良ければ良いんじゃないですかね。