この物語はフィクションであり実在の人物・団体・事件等には全く関係ありません。
内容に妙な発言や現実の何かを思わせるような発言etc…が少々描かれていますが、
現実社会で実際に同じような発言等をすると嘘吐きと言われたり後々困ったことになったり
それはもう大変なことになるので大人も子供もお姉さんも絶対マネをしないで下さい。
彼等を見た正義の味方の方々はどうか広い心で受け入れてあげてください。








 放課後の小会議室で5人の人間が顔を突き合わせている。
 教職員なら人数が少な過ぎるし、生徒ならそもそも小会議室という場所を使っていることそのものがおかしい。
 つまり、誰が使っているにしろ多少の違いこそあれ結局はおかしいのだが、この場合は残念ながら後者であった。
「さて、諸君」
 偉そうな口振りで言葉を発したのは中心に座っている男子生徒だ。名を柿崎慎吾といい、野球部の4番バッターで、一応この5人のリーダーということになっているらしい。
「とても言いにくいんだが我々エースレンジャーに重大な問題点があることが判明した」
 何を隠そうこの5人はエースレンジャー、正式名称球技戦隊エースレンジャーという学校公認(公言している訳ではないが校長が関与しているので間違いなくそうだろう)の戦隊ヒーローなのである。
 今更何だ。英和は誰にも聞こえないように呟く。
 始めから最後まで問題点しかないような集まりなのに、と思わなくもない。
「問題点を言う前に、改めて各自のカラーを確認しておきたい。まずはオレだが、野球レッドに間違いは無いな?」
 柿崎が4人に確認すると、みんなが頷く。
 今更何だ。再び英和は呟いた。
 本人が言った通り、柿崎はエースレンジャーでは野球レッドということになっている。そして正真正銘野球部のエースだ。
「逢沢がサッカーブルー」
 またしてもみんなが頷く。逢沢拓もやはりサッカー部のエースだ。まあ、だからこそ『エースレンジャー』なんていう組織に組み込まれているのだろうが。
「羽田がスカッシュホワイト」
 何故か炭谷と英和を飛ばして、柿崎は先日加入したばかりの人物の名を呼んだ。
 エースレンジャー紅一点である彼女の名前は羽田亜矢。
 総勢2名のスカッシュ同好会会長で所属学級は1−C。人数が少なすぎて部としては承認されていないが、スカッシュの腕前は確かなようで全国大会の常連だという。言われてみれば壇上に上った姿を英和は見た事があるような気がした。
 レンジャーにスカウトされ即座にそれを快諾した彼女だが、それ以外は割合普通の性格のようで、活動時に何故か3人のツッコミに始終している英和を安心させた。
 また、料理・お菓子作りが得意らしく今日はマフィンを焼いてこの場に持ってきてくれていた。
 出した瞬間に食欲魔人たちに食い尽くされたのでもう無いが。
「そして炭谷がブラック、鈴木がグリーン」
 最後に英和と共に呼ばれた炭谷壬はバレー部のエースアタッカーである。そして英和――鈴木英和は卓球部の部長でありエースだ。
「……で、何が問題なんだ柿崎」
 逢沢が尋ねた。確かに各々のカラーを確認しただけでは何が問題なのかサッパリ分からない。
「――……ブラックとグリーン」
「何だ?」
「は?」
 柿崎が口にしたカラーを割り振られていた炭谷と英和が反応する。だから何だっての。
「だから! ブラックとグリーンが問題点なんだ!」
「待った!! 意味が分からない!」
 苦虫を噛み潰したような顔で言う柿崎に英和が待ったをかけた。確かに意味が分からない。
 英和に突っ込まれ、柿崎はしばらく沈黙していた。演出としてのタメなのか、ただ単に言葉が出てこないのかは分からないが、とにかく沈黙していた。
 沈黙する事30秒。そろそろ英和の我慢も限界に達そうとかという所で、とうとう柿崎は口を開いた。
「……戦隊ヒーローで、ブラックとグリーンという色が同席した過去が無いんだ!」
 その一言に英和は口をぽかんと開けて呆け、逢沢と炭谷は「な、なんだって?!」と驚く。羽田はよく分かっていないようだ。
「それは由々しき自体だ!」
「早急に何とかすべきだな……!」
 柿崎の言葉を聞いて同じように深刻な顔になる2人。どうしてたかだかヒーローの色というだけの話でそこまで深刻になれるのか、英和には理解が出来ない。したいとも思っていないが。
 そもそも過去のヒーローものでブラックとグリーンが同席したことがない(つまり同じ戦隊内に存在したことがないという意味だろう)というのが何故問題なのか。別にオレンジやら紫やらどどめ色やらで歴代に存在してないないという訳ではないのだから構わないと英和は思うのだが。
「と、言う訳で鈴木、キミは今日から卓球イエローだ!」
 今までの深刻さを微塵も感じさせない明るい声音で柿崎が突然言った。
「はぁ?! 何でオレなんだよ!」
 いやいやいやいや、もっとツッコミを入れるべきところは他にあるだろうオレ! と思いつつ英和はとりあえず聞き返した。
「大体ブラックとグリーンが一緒に居ちゃマズイんなら炭谷でも良いだろ!」
 別に英和はグリーンというカラーにこだわっている訳ではないのだが、サックリ自分に変更令が出たのは何となく納得いかない。
「駄目なんだ…」
 暗ーい様子で炭谷が言った。それに柿崎が続く。
「炭谷はカレーが嫌いなんだ」
 へーそうなんだ珍しいね。通常の会話でならそう相槌を打つのだろうが今は通常の会話ではない。
「イエローがみんなカレーが好きな訳ねぇだろ!」
 大体そんな事を言うのなら英和だって特別カレーが好きな訳ではない。勝手な都合で押し付けて欲しくないものだ。
「別にイエローが居なくなって良いじゃねーか」
「良くない! 良くないぞ鈴木!」
 何がどう良くないんだ、と英和が聞き返す間もなく柿崎が続ける。
「イエローというのはただカレーが好きなだけじゃない。ちょっとドジだったりおっちょこちょいだったりするんだ」
 だからそれが一体何だというのか。イライラしてきた英和の様子に気付かず、柿崎は更に続ける。
「すなわちお茶の間のアイドルだ! テレビの前の奥様方の母性本能をくすぐる重要な役割を担っているんだよ!」
 ああもうホント訳が分からない。
 意味不明な理屈(逢沢と炭谷はうんうんと頷いているが)を展開されさすがの英和も我慢の限界が来た。柿崎の正面に踏み込み状態を屈め、言う。
「アホ言うなボケ!!」
 ツッコミと同時に柿崎のアゴに拳を突き上げた。不意打ちで正確無比なアッパーを食らい柿崎が吹っ飛ぶ。
 この威力と正確さは実戦経験の多さが成せる業だが、身につけるに至った経緯に感謝など間違ってもするつもりは無い。
 日頃のうっ憤晴らしもかねた一撃を放ったことで多少スッキリした英和の耳にパチパチという拍手の音が届く。
 発生源を辿ってみるとそこには笑顔の羽田がいた。見事な技を見せられ素直に感心しているようだ。
 ……どう考えても、のほほんと「すごいねー」と言う場面ではないと英和が思うが、彼女があまりにも純粋な笑顔をしているのでそれは言わないでおいた。
「――鈴木、腕を上げたじゃないか。まさに卓球イエローに相応しい……」
 柿崎が何かを言っているが無視する。
「そんなにイエロー入れたきゃ、羽田さんをイエローにすれば良いじゃん」
「それは駄目だーっ!」
 呆れるように……いや心底呆れて英和が言うと、予想外の方向から否定の声が聞こえてきた。逢沢と炭谷である。
「女性がイエローになる場合は、隊員に女性が2人いる時だけだ!」
 ああそうですか。どうでも良いよ。
「それだけではないぞ!」
 復活したらしい柿崎が偉そうに告げる。それにしても何故コイツはこんなにも偉そうなのだろうと時々英和は思う。
「オレが卓球イエローにこだわる理由はもう1つある。何故なら鈴木、お前はイエローの適格者だからだ!」
 適格者? なにそれ。
 英和が本日二度目の呆れから来る放心をしていると、柿崎は気付いていないのかやはり偉そうに言った。
「だってホラ、鈴木の鈴ってなんか黄色っぽいイメージだろ?」
 最初は鈴木の木からグリーン連想したんだけどお前ならイエローも出来るって。と、先程までの偉そうな態度と打って変わってフレンドリーに話しかけてくる柿崎。
「何が、だろ、だ! ふざけんなぁーっ!」
 本日二度目のアッパー、もとい卓球アタック。まあどっちでも良いような気はするが。
「お前等苗字のイメージからカラー決めてたとかアホか!」
 アホ過ぎて涙が出てくる。おまけにこんなアホな集団に自分が属しているという事実に情けなさをも感じる。
 きっと不良に絡まれる前から目をつけられていたに違いない。だって球技のエースで戦隊モノにある色的なイメージがある苗字をしている生徒なんてそうそう学校に居ないのだから。
 こんな学校入らなきゃ良かった! 英和は内心で嘆く。……今更だが。
「大体苗字から連想っていうけど柿って赤じゃなくてオレンジじゃねぇか!」
「鈴木、それは禁句だ! アイツ気にしてんだから!」
「気にしちゃってんのかよ!」
 せめて開き直っとくべきだろ! 等とギャーギャー騒いでいると、今まで黙っていた羽田がポツリと言った。
「私、黄色より緑の方が好きだなぁ」
 その一言で全員の動きがピタリと止まった。正確には心身ともにグロッキー状態の柿崎を除いて、だが。
「……ブラックとグリーンが居ても良い、よな?」
 イエスオーライ良いんじゃないオーケー問題なくね? と、今までのやり取りは何だったんだと思わざるを得ない程に簡単に、アッサリとした言葉を交わして事態は終息した。
 恐るべし羽田マジック。
 出来ることならもっと早くその台詞を言って欲しかった、と英和は思ったが、羽田さんだからまあ良いかと思い直した。人徳があるというのは特である。
「あ、時間だ」
「では明日からもエースレンジャーはレッドブルーブラックグリーンホワイトの5色ということで」
「じゃーまた明日」
「明日ねー!」
 そう交わして4人は自らの所属する部活へと向かう為、小会議室から去って行った。
 残ったのは横倒しになった机と椅子と、暗ーい雰囲気の柿崎のみ。
「良いじゃないか別にオレンジも赤も一緒じゃん色相環で隣じゃん……」
 ぶつぶつメソメソと何かを呟いている柿崎がグラさんに発見されるまであと20分。
 頑張れ柿崎慎吾! 負けるな柿崎慎吾! エースレンジャーリーダー、野球レッドの名が泣いてるぞ!!
 ――と、それこそテレビ番組ならテロップが入るのかもしれないが、生憎そんな慰めは誰もかけてくれなかった。
 憐れ、柿崎慎吾。





それでもオレはくじけない。何故ならオレはヒーローだから!



ご愛読ありがとうございました。これからも彼等の活躍にご期待下さい。