アダルトチャイルド

「眠れないのですか」
 窓際で外の闇を見つめる彼に声を掛けた。彼は私が眠っていると思っていたのだろう、少しだけ肩を震わせて振り向く。
「あ、悪い、起こしちまったか?」
「いえ、私も眠れなかったんですよ。ですから気にしないでください」
 意識して明るい声音を使ってそう口にする。嘘は吐いていない。一向に眠る気配が無い彼のことが気になって眠れなかったのだ。
「どうしたんです。いつもなら眠れないのだとしても横になっているでしょう」
 そう言うと、彼は少し戸惑ったように俯いた。
 野営であればまだしも、折角ベッドで休息を取れる機会なのだ。眠れなくとも疲れを取る為に横になっておくべき必要性を彼が理解していないとは思っていない。その上で、彼が横になろうとしないのは何か理由があるのだろう。
 静かに彼の言葉を待つ。ほんの些細なものだとしても、何か音を立ててしまえば恐らく彼はその問いをはぐらかしてしまうだろう。
「…こういう日は、落ち着かないんだ」
 ゆっくりと、彼は口を開いた。その瞳は薄闇の中で頼りなさ気に揺れている。
「胸に孔があいている、みたいで」
 そう告げた彼の声はまるで幼子の様だった。聞き慣れた筈の低音が拙く響く。
 嗚呼、彼は。その感覚が何であるかが分からないのか。その感覚が寂しさだということを知らずに――或いは受け入れることが出来ずに――ずっと、独り堪えてきたというのか。
「それは、寂しいというのですよ」
 彼の手を引き寄せ、半ば無理やり腕の中に納める。
「おい、ジェイド!?」
「深夜なんですから静かにしてくださいね」
「アンタなぁ…」
 暫くそうしていると、二人分の体温が混ざり合う様な温かな感覚がやってくる。
 大人しくなった彼の頭に額を乗せて眼を閉じる。今、彼に対して抱いているこの感覚を何と呼ぶのかを、私は知らない。

 例えその方向が違うのだとしても、感情と感覚の一致が分からないという事に関しては私も彼も変わらないのかも知れない。