何かを欲するなら動きだせ

 アンタを抱きたいともアンタに抱かれたいとも思えない。だからアンタとは付き合えない。
 恋愛対象として貴方が好きです、というジェイドの告白に対するガイの返答がこうだった。
「肉体関係を持たずとも恋愛は出来ますよ」
「俺はそうとは思わない。愛情がなくてもセックスは出来るが、恋愛の到達点がセックスだってのは確かだろう」
「確かにそれはひとつの答えです。ですが、恋愛の到達点は一つではない」
「は、馬鹿言わないでくれ大佐。子供のままごとじゃないんだ、付き合ってれば身体の繋がりだって欲しくなる」
 それが自然だろう?とガイは言う。間違ってはいないが、少々極論過ぎやしないかとジェイドは思う。
「アンタの事は嫌いじゃない。いつまでも隣に居たいと思うし、話してりゃ楽しい。まあ口を開けば嫌味ばかりだし他の人間と喋ってるのを見ると面白くないし良いことばかりじゃないが、それも含めてアンタが好きだ。だがそれはルークやティア達に対してして抱くような、友人や家族に向けるような感情と変わらない。だから悪いが諦めてくれ」
 そう言って立ち去ろうとするガイの腕を確りとジェイドは掴んだ。
「生憎ですが、諦めは悪い方なんですよ」
「往生際が悪い男は嫌われるぜ?」
「その言葉、そのままお返ししますよ」
「どういう意味だ」
「さあ?」
 剣呑な瞳で睨み付けるガイに、何時もの笑みでジェイドは返した。
「貴方が私とセックスする気になれないと言うなら、一度セックスしてみてはどうです」
「どういう理屈だ、そりゃ」
「愛が無くともセックスが出来ると言ったのは貴方でしょう?」
「確かにそう言ったが、その前にアンタを抱く気にもアンタに抱かれる気にもならないって言った筈だよな?」
「一度してしまえば気が変わるかも知れませんよ?」
 男同士だとか互いの立場だとか、そういったものを考え無かった訳ではない。むしろ、そういった現実的なことを考えた上で、それでも彼に対する想いが止められない事を察したから告白という手段に出ることにしたのだ。
 黙っている事も出来た。だが、関係が崩れてしまおうと現実的な問題が如何に立ちはだかろうと構わないと思ってしまったのだ。今更引き返すことなど出来ない。
「随分と必死だな、大佐」
「それだけ貴方が好きなんですよ」
 散々逡巡し腹を括った挙句、あんな殺し文句を言われたら諦められる筈がない。ガイに自覚はないのだろうが。
 ガイはジェイドにルーク達に対してと同じ友愛や家族愛のような感情しか持っていないと言ったが、果たして家族や友人に対して『いつまでも隣に居たい』『他の人間と話しているのを見ていて腹が立つ』等と思うものだろうか。嫉妬深い人間なら兎も角、ガイという人間が。
 ガイの人間性を断じることが出来る程長くは付き合っていないが、それでもどちらの可能性が高いのか天秤にかけることくらいは出来る。
 考えてみれば彼は体質から異性に近付くことも難しいのだ。まともな恋愛経験など無いだろう。家族愛や友愛と恋愛感情を明確に区別する為にセックスを基準にしているのだろうが、それ以前に手の届かないもの故に『恋愛感情』やそれに伴う性行為を神格化している可能性があるのではないか。
「離してくれないか」
「お断りします」
 にこやかに返し、質問をぶつける。
「貴方、抱きたいとも抱かれたいとも思えないと言いましたが、それは単に想像が出来ないというだけなんじゃありませんか」
「だったら何なんだ」
「いえ、まだ望みがあるんじゃないかと思いまして」
 そう言うが早いか、ジェイドはガイに口付けた。言葉を発しようとしていたせいか半開きになった唇から舌を侵入させ口腔を蹂躙する。
 ガイはジェイドを引き剥がそうと掴まれていないほうの腕で胸を押して来たが、ジェイドの舌を噛もうとはして来なかった。一瞬、脚を使い攻撃を仕掛けようとしたが、すぐに躊躇い、靴先がじりと地面を削る。
 そんなガイの様子にジェイドは笑みを深くし、唇を離した。
「なに、しやがる」
「こういうキスをする気も無かったでしょう?」
 でも、貴方は抵抗しなかった。舌を噛み切ることも、攻撃に出ることも出来たのに。
 本気で拒絶するならガイはそのつもりで行動に出ただろうし、した筈だ。此方は男性なのだ、彼が自ら行動を制限するような要素など持ち合わせていない。例え親愛を向けるような相手であったとしても、ガイならば蹴りの一つくらい出すだろう。彼は他人に優しくはあるが、自らの貞操の危機にまで相手を気遣うような女々しさは持っていない。
「逃がしたりなんかしませんよ」
 自覚させてやろうではないか、とジェイドは笑みを深くした。