「旦那、少し休憩にしよう。何か飲むかい?」
「ええ」
「コーヒーと紅茶、どっちにする?」
「そうですね…。では、コーヒーでお願いします」
「了解」
簡単なやり取りをして、ガイは給湯室に向かった。
執務室の窓からはやや湿ってはいるが、それでも爽やかな風が入り込んでくる。
これから雨でも降り始めるのだろうと思いながら、暫く書類に目を落としたまま作業をしていると、コーヒーの良い香りが漂って来た。
「はいよ。あと茶菓子にクッキーな」
「ありがとうございます」
ジェイドがカップを持つとすぐに「熱いから火傷に気をつけろよ」という声がかかる。いやはや良く気が回るものだ、と呆れ半分に関心しつつも「大丈夫ですよ、お子様じゃあるまいし」と返す。「まあそうだけどさ」と苦笑するガイはどこか愉しげだ。
「でも何か珍しいな」
「何がです?」
「いや、旦那って何時も紅茶飲んでるだろ?でも今日はコーヒーが良いっていうからさ」
「私だって偶にはコーヒーを飲みたくなる時もありますよ」
「そりゃそうだろうけど」
「それに、ガイが淹れたコーヒーは格別に美味しいんですよ」
ああ勿論紅茶もですが、愛の成せる業でしょうかねぇ。と顔色ひとつ変えずにジェイドが告げるとガイは頬を赤くした。
「…言ってて恥ずかしくないか?」
「貴方にだけは言われたくないですねぇ」
まだ熱いだろうに、コーヒーカップを手にしたまま暫くブツブツと何事かを呟いているガイだったが、気が済んだのか開き直ることにしたのか諦めたのか、顔を上げた。
「まあ、旦那がそう言ってくれるなら、コーヒーだろうが紅茶だろうが何時でも淹れてやるよ」
「ありがとうございます」
そう言って飲み込んだコーヒーは、やはり記憶にあるどのコーヒーよりも美味に思えた。
こんな穏やかな日が来るなんて想像もしなかった。