色褪せぬものなどなく

 眼を、開ける。
 この所きちんとした睡眠を取れていない。眠っても、すぐに目が覚めてしまう。
 身体が睡眠を拒否しているようだ、と思う。実際は脳が眠らせてくれないだけで身体は必要としているのだろうが。
 ぼんやりと薄明るくなったきた室内に掛けられた時計で時間を確認し、硬い机から身を起こす。
 満足に眠れなくなってから、部屋にあるベッドはオブジェになっていた。同室者が居る場合も――それは大抵親友であるのだけれど――悟られないように、部屋を出たまま朝方まで帰らないようにしているので、その事は変わらない。
 眠れないのだからせめて身体だけでも休ませようとは思うのだが、なんとなくベッドと疎遠になってしまっている。
 立ち上がり部屋を出ようとドアに手を伸ばした所で、ずん、と鈍い痛みが右腕を覆う。
 原因は恐らく“あの夢”だ。殆ど眠れないくせに、不思議と毎夜夢を見る。まるで、忘れるなと訴えかけるように、腕の痛みを伴って。
 忘れてなどいない。忘れなどするものか。響く悲鳴、痛いほど鮮やかな色、全てを覆うような臭い。全てを鮮明に覚えている。
 なのに繰り返し同じ夢を見るというのは、病んでいるという事なのだろうか。
 それとも、覚えているつもりでいるだけで、忘れかけているのだという己からのシグナルなのだろうか。
 そこまで考えて、どちらでも構わない、と自嘲気味に口元を歪めながら思う。
 ガイにとって心底それは、どちらでも構わなかった。病んでいようが、夢に魘されようが、眠れなかろうが、痛みが消える事がなかろうが。それを忘れることがなければ、どちらでも。
 何よりも恐れるのは忘れてしまう事だ。忘れてはいけない。彼等の最後を、奴等の行為を、味わった絶望と無力感を。

 

 だからこそ、忘れたくないのだ。あの日の惨劇を。