船が襲撃されるのを見ていたらしい子供達とジェイドの話し合いにより、彼等の本拠地である船――バンエルディア号というらしい――のゲストルームに通された。
逃走の際に右肩を外したルークだったが、怪我の程度はそう酷いものでも無かったようで、ティアの治癒術により殆ど治ったようだった。
自国の要人であり、何よりも自身の親友であるルークが無事で本当に良かったとガイは思う。
だが、直ぐ本国には戻れない。予期していたことではあったが、些か厄介なことになったな、と一人溜め息を吐いた。
「おや、随分大きな溜め息ですねぇ」
「…旦那か。ルーク達だったらクルー達の所へ挨拶に行ってるよ」
これから暫く世話になる人間への挨拶は当然すべきだとは思う。ガイも後で挨拶に回るつもりだ。が、ルークの目的としては探索半分だろうとガイは思う。箱入り息子であったルークにとってこういった場所は初めてだろうし、単に船として見てもこの船は中々に面白い構造をしていた。ガイ自身――恐らくジェイドも――コレに似た船にはお目に掛かったことがない。
「好都合です。痛めたのは左腕ですか?ルーク達が帰ってくる前に観念してさっさと見せなさい」
ソファに腰掛けるガイに近寄りながら、やや早口でジェイドが告げる。
「…何の事だい?」
「とぼけようとしても無駄ですよ。ある程度確信していますから」
何なら実力行使に出ましょうか、という駄目押しの一言で、ガイは「降参だ」と右手を挙げた。――元々ジェイドに隠し事が通じるとは思っていなかったが。
「いつ気づいた?」
「ティアも言っていたでしょう『貴方が早とちりするなんて珍しい』と。屈強な成人男性が向かってきたならまだしも、全く交戦意志のない子供相手に問答無用で切りかかるなんてこと、普段の貴方なら絶対にしない筈ですからね。例えルークが負傷していたとしても、です。ですが貴方もどこか負傷している為に戦力的不安があり、精神的に余裕が無かったとすれば、まあ早とちりするもするだろうと。そして実際、貴方は彼等に負けていたでしょう?4対1だとしても経験の浅い子供相手に貴方があそこまで不足を取る訳がないですし。」
ジェイドはどこから入手したのか、持ってきた道具で手早くガイの左腕の処置をして行く。
一時医者を目指していた事があるのだと聞いたことがあるが、この手際の良さからすると恐らく真剣に志していたのだろうとガイは思う。ジェイドが全てに於いて器用な人間だということもあるのだろうが。
「全部お見通しだった、って訳か」
「ええ。他の人達は気づいていないでしょうが、その後の会話でも少し腕を庇っていましたしね」
出来ましたよ、と告げられ、跪いていたジェイドが立ち上がる。
「本当はティアか誰かに治療して貰った方が良いんですがね」
大所帯ではないとはいえ、そう少なくも無い人数でギルドの真似事をしているのだからクルーの中にも数名は治癒術が使える人間はいるだろう。実際、ガイは戦闘中に彼等が治癒術を使うのを目にしている。
「あんな事があってティアも疲れてるだろうし、彼等はオレ達を受け入れてくれてるんだ。そこまで迷惑はかけられないだろ」
「…そう考えていると思って応急処置をしに来たんですよ」
他人のことばかり優先して自分を蔑ろにするのが貴方の悪い癖です、と溜め息と共にジェイドが言う。
「それに、そう大した怪我でも無いしな」
「ルークが同じ怪我をしたとして、同じ事を言えますか?」
ぐ、とガイが黙った。
目に見えてルークに甘いガイだが、例えティアやジェイド、或いは他の誰かが同じ怪我をしても彼は決してそれを放って置かないだろう。他人が同じように怪我を隠そうとすれば怒るくせに、自身の怪我にはとことん無頓着なのだ。面倒見が良いのは結構なのだが、もう少しでも自分を大切にしてもらいたいものである。
そして近い将来、この船の子供たちの面倒も見るようになるのだろうとも思う。あまりにも容易に想像が出来る未来に、ジェイドは思わず溜め息を吐く。
「――此処の仕事の手伝いもすることになると思いますが、あまり無理はしないようにしてください。特に、年下ばかりだという事で変に気負わないように」
「分かってるよ。成り行き上とはいえ、今の本業はルークの従者だしな」
はてさてその言葉を一体どこまで信用して良いのやら、と思いつつジェイドは「分かっているなら良いです」と返す。ガイ・セシルという青年の価値観の尺度は他人と彼自身で比べるのも馬鹿馬鹿しくなる程違うのだ。
「それと、部下が貴方とティアだけになってしまいましたから、諸々の指令も受けて貰う事になります」
当初の予定とは変わってしまいますが、構いませんね?というジェイドの言葉にガイは頷く。
状況が状況なのだ。嫌とは言えないし、言うつもりも無かった。
「アンタの部下はティアとオレだけになっちまったからな。構わないぜ」
「では今すぐにでも…と言いたい所ですが、まずはその怪我を十分に治すことが貴方の仕事です。動くのはその後でも遅くないでしょう」
そう告げるとジェイドは応急道具を手にして、退出する為ドアへと向かう。
「ジェイド」
ふとガイが呼び止める。
「なんですか」
「いや、何というか…サンキューな」
頭を掻きながら目線を逸らし、ガイが言った。その様子に微笑みながら、ジェイドは応える。
「構いませんよ。怪我が癒えたら馬車馬の様に働いて貰いますから」
「そうかい、覚悟しとくよ」
互いに笑みを交わしてから、ジェイドは部屋を出た。
A組合流直後。主人公がパーティにティアとルークを入れたと思ってください。
ジェイドはすごい余裕なのにガイは全く余裕無かったですよね。