名伏し難いものと遭遇したレジェ

 目の前に現れたソレは、異形としか言いようがないモノだった。
 これは駄目だ、と雨彦は直感する。人間がどうにか出来るモノではない。
 そのことは理解出来るのに、思考がそれ以上動かない。圧倒的なまでの根源的恐怖感に呼吸の存在すら忘れかける。
 と、突然腕を掴まれ強い勢いで後ろに身体を引かれた。
「雨彦、想楽! 逃げますよ!!」
 古論は右腕で北村を抱えるように、左腕で雨彦の腕を掴みその場から駆け出していた。北村は未だに衝撃から抜け出せきれていないのか、まだどこか茫然としている。古論は珍しく、余裕のない硬い形相をしていた。
 もう逃げ出しているじゃあないか、と思ったところで雨彦は自分の頭が漸く回り始めたことを認識する 。
 雨彦達が惚けてしまっていたのはそれほど長い瞬間ではなかったらしい。背後で悲鳴が上がり、走りながら少しだけ後ろを見遣ると他の者が異形のモノに襲われている。古論の判断は素早く、そして正しかったらしい。あそこで腕を引かれていなければ襲われていたのは自分達だったかも知れない。助けなくて良いのかと少し迷うが、アレに対して自分達が無力なことはあの一瞬でよく理解してしまった。
「何なのアレ」
 異形のモノから逃走し、十分に離れられただろう場所に3人は居た。持ち直したらしい北村が、荒い息の合間にそう口にする。
「分かりません。…ですが、今まで確認されているような生物ではないと思います」
 
 
 


SAN値が下がる奴に遭遇したLegenders
これを書いた頃はまさか劇中劇にいあいあしたものが出て来るなど想像もしておらず。