愚かでも愛しい

「なあ、ジェイド。オレは今が大切だよ。今すごく幸せだよ。今まで生きてきて死ぬほど辛いこともあった。思い出すことすら辛い記憶も有る。何であんな事したんだろうと後悔する事も有る。それでも、そんなことを含めて全部今までにあったことが大切なんだよジェイド。オレは、後悔はしてても過去に戻ってやり直したいとは思わないんだ。だから過去に戻れるなら自分を殺すというアンタの気持ちは分からない。でも、でも、オレはジェイドと出会えたことを幸せだと思ってる。ルークやイオンの事を抜きにしても、アンタに――ジェイドという人間に出会えたことを幸福に思ってる。掛け替えの無いものだと、失いたくない出来事だと思ってる。だから、もし仮に過去に戻る手段が出来てアンタが自分を殺しに過去に戻ろうとするなら、オレは全力でそれを止めるよ。ジェイドが居なくなることで手に入る別の幸せがあるのだとしても、オレはそれを手に入れたいとは思えない。大勢の人間の命と自分の幸せを天秤にかけるのかって怒られそうだけどさ、それでもオレはアンタと出会ったことを無かったことにはしたくないんだよ。利己的だよな。酷い人間だと自分でも思う。でもさ、オレはやっぱり今が好きだよ。好きなんだよ。ジェイドとこうして話せる今が、そうなるに至った今までがすごく大切なものだと思ってるんだ。だからさ、自分が生まれたことをあまり後悔しないでくれよ。少しで良いから、自分自身の事を好きになってくれよ。でないと、アンタを大切に思ってるオレがバカみたいじゃないか。アンタが無くても良いと思ってるモノを後生大事に思ってるなんて、虚しいじゃないか。——悲しいじゃないか」

嗚呼、何という顔をするのだろう。確かに彼の言い分は彼自身の言う通り利己的な部分があった。幾千幾万という命と自身の幸せを天秤にかけて自身の幸せを取ると云うのだから。彼に限らず人間とはきっとそんなものだ。けれど実際にそういう場面に直面したら彼はきっと止めないのだろう。止めて欲しいと止めてくれと思いながら、心内で叫びながら、見送るのだろう。自分自身を罵りながら、傷付けながら、最後まで見送るのだろう。彼がそういう人であると私は知っていた。だからこそ、そんな彼がこう言ってくれた事が少々嬉しくもあった。出来ることならそんな事をしないでくれと、直接口にはせずとも確かに彼はそう云ったのだから。彼は狡く、とても優しい人だった。だからこそ、そんな彼が幸せになるのだと云うのなら、ほんの少しばかり自分を好きになろうかと思うのだ。私が自分自身を少し好きになることで彼が幸せになれるのなら、この位の事はしてやりたいと思うのだ。彼は狡く賢い人だ。彼がそう言えば私がそうせざるを得なくなることを理解して、そういう言い方をするのだから。そして、それでも構わないと思ってしまえる程、私は彼のことを愛しいと思っている。出来ることならこの幸せを手放したくないと思っているのだから、結局は私も結局は彼と同じ、人間だったということなのだろう。