白く遠く

 妹の家を訪ねた帰りに、ふと公園にでも寄って行こうかと気紛れを起こした。
 過去を懐かしむ為にではなく、単にもう少しこの低すぎる温度の空気に当たっていようと思って。熱くもなっていない頭を、冷やしたかった。或いはそうする事で思い出を封じようとしているのかも知れないが、本当の所はジェイド自身にも分からなかった。
 あまり地元の人間には会いたくないが、彼等は不必要に外をうろつく事は無いからその心配は無いだろう。
 そうして公園へと足を向けると、其処には予想もしていなかった光景が広がっていた。
「何をしているんですか」
 雪の上に四肢を広げて転がっているガイにそう声を掛ける。
 ガイの身体は最早薄らとは云えない程に雪を被っていた。こんな状態のガイを見つけたのがジェイドだったのは僥倖だろう。
 日付を跨ごうかというこの時間に子供が外を出歩くことはまず無いだろうが、カジノ帰りの人間や観光客がジェイドと同じような気紛れを起こして此処を通らないとも限らない。
「行き倒れている様にしか見えませんよ」
 返事をしないガイに向かって再び声を掛ける。ガイはジェイドのことを一瞥し、すぐに視線を空へと戻した。その様子を見て、ジェイドは知らず溜息を零す。
 普段は仲介役や保護者のような立ち位置に回っている彼には珍しく、その様子は拗ねた子供の様だ。
「風邪をひきます」
「その前には戻るさ」
 此処に来て漸くガイは言葉を発した。遠回しに放って置いてくれと云う言葉に、何故だかジェイドは頷く事が出来ず、更に声を掛ける。
「寒くないんですか」
「寒い方が良い。いっそ冷たい位に」
 そう呟くとガイを瞼を下ろした。胸が上下する事で呼吸していることが分かるが、そうで無ければまるで死体のようだ。
 冷たい方が良いと告げたガイの意図は知れない。――若しかするとジェイドの心中と同じなのかも知れないが、普段の何倍も口数の減ったガイの言葉からそれを推測するのは不可能に近かった。或いは、ジェイドはそれを望んでいなかった。

 互いにそのままの格好で、どれ程の時間が経っただろうか。
 不意にガイが身体を起こし、手で身体に付いた雪を掃い始めた。
 ジェイドはそれをただ見つめている。何故だろうか、声を出すことが出来なかった。何を言えば良いのかが分からない。
「…頭を、冷やしたかったんだ。少し」
 何時もの様に――まるで先程までの無表情が嘘であったかのように微笑みながら、ガイが言った。
「済まない、煩わせて」
 アンタも何か、耽りたい事があったんだろうに。
「――いえ」
「ありがとうな。オレはもう、大丈夫だから」
 そう言うと、ガイはホテルの方へ歩き出した。確りとした足取りであるのにその後姿がとても頼り無く見えたのは、何故だろうか。
 ジェイドはガイの後を追おうとしたが、出来なかった。
 ガイを支えてやる為には今の自分は不安定過ぎる。そう、何処か他人事の様に自覚している自分が居た。

 立ち尽くすジェイドを余所に、静かに夜は更ける。