ルークを探しに来たという自称使用人の青年は、確かに単身で異国の地を歩くには問題の無い程度に戦闘慣れしているようだった。
時折不自然に出足や反応が半拍遅れる事があるが、それでも公爵家の箱入り息子や、実戦経験の乏しい少女軍人よりはずっと頼りになる。部下も戦艦も失い、戦力を数十分の一にまで封じられた自分にはそれだけでも大分助けになる。
旅を続ける内、彼の不自然な出足の遅れも次第に無くなり、それについては暫く実戦をしていなかったことによるものだったのだろう、と判断をした。
新たな任務を受け、バチカルから出る段になった時、再び違和感を覚えた。
ガイの出足が、出会ったばかりの時のようにまた不自然に遅れているのだ。それどころか、合流したばかりの時よりも間があるように思う。
ブランクから来る一時的なものだろうと判断したのだが、どうやら違うらしい。前日まで戦闘を繰り返していたにも関わらず、たった一日休んだだけで以前よりも反応が鈍くなるとは考え難い。
尤も、彼が極力隠そうとしているせいかそれは些細なもので、ガイの変調に気付いているのは戦闘慣れしている自分ひとりだけであろうが。
初日の移動を終え、何やら調理をしているらしい彼の背後に立つ。ルークと女性陣は取り込み中らしく、食事の準備をしているのはガイひとりだけだった。女性恐怖症の件もあるからなのかも知れないが、彼がひとりで調理をしている理由に興味はない。何であろうがいずれにしても自分に好都合な事に変わりはないのだから。
「ひとりで寂しく調理ですか?」
「…ジェイドの旦那か。まあ俺は使用人だからね、こういう下働きが仕事だろ」
「それはそれは、ご苦労様です」
「手伝う気は無いんだな…」
作業の手を止めないまま溜め息を吐くガイに適当な言葉を掛けながら隙を伺う。
「そういう仕事は使用人の仕事なんでしょう?」
「まあそう言ったのは俺だが、暇なら少し手伝ってくれても良いだろうに」
「お断りします」
「そう言うと思ったよ」
本気で呆れ返った様子でガイが言った。
「今作っているのは…パスタですか」
「この人数分の量も比較的楽に作れるからな」
手元を覗き込みながら呟くと、そう返って来た。続けて「大佐の好みに合うかどうか保証は出来ないが」と言われたので、「食べられる物であれば文句など言いませんよ」と返す。それは紛れもない本心であったのだが、どうだかなぁと彼が苦笑混じりに溢すのが聞こえた。
「あっちが取り込み中で暇なのは分かるが、手伝う気が無いなら…痛っ」
ガイの言葉が不自然に切れる。
並んだ体制から片手で彼の脇腹を軽く鷲掴んだだけなのだが、余程の激痛が走ったのかガイは調理の手と共に息まで止めて顔をしかめた。
「戦闘で負傷した訳ではありませんね」
問いかけではなく断定するように言う。バチカルを出てからガイがまともに攻撃を受けたことは無かったし、違和感は街を――いや、バチカルで合流した時からあった。
「…生憎と、しがない使用人なんでね」
色々あるんだよ、と明言を避けつつも肯定の言葉をガイは発した。
「キムラスカ王国に連なるファブレ公爵御抱えの騎士団が敵国マルクトの領土を闊歩出来ると考えているなら、医者にかかることをお勧めしますがね」
「まあ、奴等も解ってるだろその位。ストレス発散なんだろうさ」
で、とガイが続ける。
「ヒエラルキー最下層の使用人を掴まえて、大佐は何がしたいんだい?」
挑戦的な瞳でガイが此方を見つめる。手負いであることを知られて尚冷静さを保ったままの態度に、思わず口元が弧を描く。
「いえ、このパーティーでまともな戦力として期待出来るのは貴方と私くらいですから、不安材料は極力減らしておこうかと」
そう言って懐から少量のグミを取り出す。
「食べてください。気休めよりはマシな筈です」
共同の物ではなく私個人の物ですから食べた事に気付く人は居ませんよ、と付け足しをしておく。
「アンタに借りを作ると後が怖いな」
「借りだと思うなら戦闘で返して下さい。それで結構です」
グミを手渡し、ヒラヒラと手を振ってその場から離れる。これで用件は全て済んだとばかりのあからさまな態度に、背後でガイが苦笑をしたらしい。
「ありがたく受け取っておくよ、大佐」
「宜しくお願いしますね、使用人さん」
多少不自然な点はあっても今は彼に頼る他無いのだから、と誰にでもなく言い訳をしてその場を離れた。
アクゼリュスは、未だ遠い。