いずれは二人に祝福を

 互いの胸に忘れられぬ人が居ると知っての関係だった。お互いにお互いの一番になどなれないのだと理解した上でそれを受け入れた。
 だが、いつの間にか彼女の存在は自分の中での最上位になっていたらしい。初恋のヒトの事は今も当然胸にあるが、抱く感情はいつの間にか少しばかり切ないが懐かしい思い出になっていた。
 今は――今一番に愛しいと感じるのは、目の前にいる彼女なのだということに漸く気付いたのだ。
 だが、彼女はどうだろうか。彼女と彼の関係は一応失恋という形になった自分とは違う。死別という別れの形は、自分達の別れよりずっと強くその感情を胸に刻むことになっただろう。
 決して彼女の一番になれないことは最初から判っていた。
 だから、戯れに言葉を紡いだのだ。冗談だと流される事を期待して。
「一番美しいモノは、今オレの横に居るがなぁ」
 城に招待され、紅茶を飲みながら庭の花の美しさを語る彼女に、視線を庭に向けたまま、そう返した。
 世辞の嫌いな彼女の怒った言葉が直ぐ様返ってくると思っていたが、何も音が聞こえない。
 紛れもない本心だったのだが、それと知らない彼女を本気で怒らせてしまっただろうかと冷や汗が出る。――好いた人間に嫌われるかもしれないというのはこれ程心臓に悪いことだったか、と何処か冷静を保っている頭の部分で思う。だが、それだけだった。これが幼馴染であったら何か続けて弁解の言葉を発する事くらい出来たのかも知れないが、生憎自分の頭はアイツ程優秀ではない。
 恐ろしくて彼女の方を向くことが出来ぬまま固まっていると、小さく服を引っ張られるような感覚がした。
 何かと思い恐る恐る視線をやると、白い手袋に包まれた指が自分の服の先を摘まんでいるのが見える。
 更に視線を動かすと、顔を赤くして、けれどどこか悲しそうな表情で俯く彼女が其処に居た。
「ずるい、ですわ。そんなことを言うなんて」
 小さな声でそう呟くのが聞こえる。
 更に小さな声で紡がれた言葉の続きは、風に融かしてしまおうと思った。
 それは余りにも自分にとって都合の良い言葉で、俄には信じられそうになかったから。
 或いはもしその言葉が現実なのだとしたら、もっとハッキリとそれを聞きたいと思うから。
 俯く彼女には悪いが今は聞かなかった事にしよう、と心に決めた。