今日のグランコクマの空は清々しいほどの快晴で、それがまたガイの気分を下降させた。
しかし、曇天であったり雨が降っていたとしても気持ちが晴れることはなかっただろうということも理解している。
「キムラスカへ行って来い」
宮殿に呼び出されてまず最初に聞かされたのがその言葉だった。
ピオニー・ウパラ・マルクト九世皇帝陛下がガイに命じたのは、キムラスカへと渡り、停戦の申し入れをするというものだった。
両国の橋渡し役ということで、マルクト人である父とキムラスカ人である母を持った自分に白羽の矢が立ったのだろう。
導師と共に行動する必要性も理解できる。というよりこれは導師無くしては成り立たない計画だろう。それに先ほど少し会話をしたが、イオンというひとは、導師という立場を抜きにしても好感を持てる人物だったように思う。
これだけなら気分を下降させることもないし、むしろ戦争を止めに行くことなど戦争を嫌う自分には願ってもないことだ。
それに、今は敵国とはいえ、亡き母の故郷へ踏み入れることが出来るのはとても嬉しい。
問題は同行者だ。
マルクト帝国軍第三師団師団長、ジェイド・カーティス大佐。――旧姓、バルフォア。
ホドを崩落させるに至った理由を作り出した張本人であるジェイド・バルフォア博士が、同行者だというのだ。これで気分が悪くならない方がおかしい、とガイは溜息を吐く。
ガイはジェイドを嫌っていた。憎んでいた、と言っても良い。直接家族を殺したのはキムラスカのファブレ公爵であるが、故郷を消滅させる理由を作った本人であり、幼馴染の命を奪った技術を作り出した人間なのだ。事情を知り、ジェイドが過去を後悔している事を知った今、憎悪の念こそ無くなったものの、それでも彼を好きになどなれる筈が無かった。なって良いとも思えなかった。
「何処に行くんですか、ガーイ?」
「…アンタか」
猫撫で声で茶化すように声をかけて来たのは、ガイの気分を下降させている人物――ジェイド・カーティスその人であった。
「何処に行こうが、そんなのはオレの勝手だろう」
「今までなら確かにそうですが」
ガイが全身でジェイドのことを拒絶をしているにも拘らず、彼はガイを見かけると必ず近付いて来た。まるで「そんな事などまるで意に介さない」と主張し、拒絶するガイを嘲笑うように。その点も、ガイがジェイドを嫌う理由のひとつだった。
「キムラスカへの名代である伯爵様が怪我でもしたら事ですから」
「オレは伯爵じゃない!」
声を荒げてから、しまったと思う。これではジェイドのペースだ。
「…爵位は陛下へお返しした。今のオレは伯爵でも何でもない、ただのガイ・セシルだ」
「その『ただのガイ・セシル』に陛下が名代を任せるとでもお思いで?」
「知るかよ、そんなこと」
用は済んだとばかりに歩調を速め、ジェイドから遠ざかろうとする。が、それにも構わずジェイドはガイに付いて来た。
「何か御用でも? 大佐殿」
「陛下から聞いているでしょう? 私は貴方の護衛で、貴方を守る義務があるので」
にっこり、とでも擬音が付きそうな笑みを浮かべてジェイドは言った。護衛任務はグランコクマを発ってからの筈ではないか。ガイは、馬鹿にするな、と思うが口には出さない。どうせ此方の反応で遊んでいるだけなのだ、この男は。
ひたすら黙々と人通りの少ない路地に出た所で、ガイがぴたりと足を止める。同時に、ジェイドも歩みを止めた。
「アンタ、気付いてただろ」
「貴方も、気付いていたからこんな所に来たのでは?」
「さてね」
ガイは鞘に手を掛け、柄を持つ手に力を入れる。刀を抜く動作で相手に一太刀浴びせるイメージをする。
ジェイドもポケットに突っ込んでいた右手を胸の高さに持ち上げた。コンタミネーションで腕に同化させている槍を取り出すつもりなのだろう。
「死なないでくださいね」
「冗談」
喉で嗤いながらガイが言った。
瞬間、強い風が吹く。建物の隙間を縫うような強烈な海風に、髪の毛が揺れる。
前髪が視界を覆った一瞬を見計らったかのように、物陰から十数人が飛び出して来た。一体この人数が何処に潜んでいたのだろうか、と比較的どうでも良いことを思考の隅でガイは考える。
イメージ通りに刀を抜きながら一閃、そこからは流れるように攻撃を紡ぐ。瞬きをするよりも自然に、髪を撫でるより滑らかに。
相手は皆、パワータイプのようだった。技量もそれなり――一般兵士並みかそれ以上といった所だろうか。こういう手合いは、スピードで相手の隙を衝くガイのスタイルとは相性が良い。無論、こちらが有利であるという意味で。
息吐く暇も与えぬように次々と攻撃を繰り出す。視界の端では、ジェイドが間合いをとりながら槍で暴漢を打ち倒していた。本来は譜術師であるというのに、よくもまあこう近接戦で次々と出来るものだ、と呆れにも似た感想を抱く。
人数もさして多くないようだったし、そろそろ片付いただろうか。
付近に立っている人間が自分とジェイドしか居ないことを感覚で確認しながら刀を鞘に戻し、動きを止め、息を吐く。
「…で、これは何だ?」
「名代の件は極秘事項ですし知っているのは陛下と私、貴方を含め数名です。洩れているとは考え難いですね」
「じゃあ大佐殿への私怨たっぷりの襲撃とみるべきかな?」
「貴方に心当たりが無いのであればそうなるでしょうねぇ」
暫くニコニコと向かい合うが、やがてガイが笑顔を作ることを止め、溜息を吐いた。
こんな血生臭い所でこんなことをしていても埒が明かない。
「……憲兵呼んで来る」
「いやー、態々すみませんねぇ」
諦めたように言うガイに対して、ジェイドはいつもの胡散臭い調子で答える。
それに対して腹を立てる気力はもう無かった。
「あーあー、言ってろ。動く気なんて無いクセに」
表通りの方に歩みを進めジェイドに背中を見せたまま、ひらひらと手を振る。
ジェイドが倒れている暴漢らを一瞥し、息のある者の拘束をしようと屈んだ時、ふと、ガイが歩みと止めた。
「『作戦行動中』にこんな事が無いよう、宜しく頼むぜ大佐? 客品もいるんだしな」
「肝に銘じておきましょう」
じゃあ、後は宜しく。と言ってガイはその場を後にした。
幼馴染パロで闘う殺伐JGを書きましょう、というお題で出来上がったもの。