貴方が笑うたびに心に咲く花の名前

「貴方は本当に可愛いですねぇ」
 何が楽しいのか音機関や譜業といったものに疎い人間にはよく分からないが、ただひたすら楽しそうに音機関を弄るガイ。そして、その様子を温い紅茶と薄い小冊子を片手に眺めていたジェイドの口からふと零れた言葉にガイが反応する。
「…20歳を過ぎた男が可愛いって?その眼鏡歪んでるんじゃないのか」
「嫌ですねぇ、眼鏡は至って正常ですよ。勿論この眼も。私が言ったのは中身の話です」
 呆れた様子で(それでも音機関から目を外さずに)返された言葉に訂正の意を込めて言う。
 実の所、金色の髪を陽光に輝かせながら動く姿も、抜けるように高い空の如く青い瞳で微笑む表情も可愛いと思っているのだが。告げてしまえば本格的に呆れられそうなのでそれは伏せておく。
「オレが可愛い?」
「ええ。これでも納得できませんか」
 そこで初めて目線をジェイドの方に向け、そうかな?何所が?可愛いか?等と顎に手をやりながらブツブツ呟いて考え込む様子ですら可愛らしく感じるのだというのに、決して彼はそれに気付かない。しかしそう思ってしまう自分も大概だな、と少しだけ苦笑した。
 そろそろ何所が可愛いのかを尋ねて来るだろうと思い、冷めかけの紅茶を口にする。香りの飛んでしまったそれは、ガイが作業を始める直前に淹れたものだった。
「ああ、でも」
 ジェイドの予想とは違う言葉がガイの口から発せられる。
「旦那も時々可愛い所とかあるし――、そういうことなら、解るかな」
 そう言って、ガイはとても優しく、柔らかく、愛おしそうに微笑んだ。

 

(嗚呼だから、貴方には敵わないのだ)