優しさにヴェール

 ああ、新しい玩具を見つけたな、とジェイドの笑顔を見たガイは思う。
 確かにこの船は――ガイ個人からしても――とても魅力的だが、それだけではないだろう。クルーである子供達、取り分け幼いこの船の船長をジェイドは気に入ったようだ。この場合の“気に入った”というのはおちょくる対象という意味――本国では自他共に認める人付き合いの悪さを誇る彼は、不思議と10代の子供を相手にすると妙にテンションが上がる――であるから、気に入られてしまった彼女は迷惑この上ないだろうが。
「人をからかうのも大概にしとけよ?」
 散々ジェイドに遊ばれたチャットがジェイドに対しての不満をこぼしつつ部屋から出ていくのを見送って、ガイは言った。
「人聞きが悪いですねぇ。私はだた、ほんの少しだけ茶目っ気を出しただけなんですが」
「30越えたオッサンの茶目っ気なんざ誰も見たか無いだろ」
 溜め息と共にそうこぼすと、ジェイドはワザとらしく「傷付きますねぇ」と返してくる。

 しかし、玩具が見つかったからと云っても此処に来てからのジェイドは不自然だ。だが、ジェイドとあまり付き合いがないルークや、此処で初めて出会った子供達は気付いていないだろう。もしかしたらティア――或いは他の聡い人間も気付いてはいるかも知れないが、きちんと解っているのはガイだけだろうと思う。
 彼は少々不自然に明るく――多少ウザったく振る舞うことで他人を遠ざけ、不安要素があることを周りに悟らせまいとしているのだ。
 人には無理に隠し事をするなだの少しは素直になれだのと言うのに全く仕方の無い奴だ、とガイは苦笑する。自分達が一緒に居ると意外だ何だと言われるが、結局、2人は似ているのだろう。
「まあ、オレじゃあ頼りないかも知れないが、少しは頼ってくれよ」
 現状で『大人』に分類される人間は自分とジェイドだけなのだ。その自分達にしても14の年の差がある。仕事上でもそれ以外にしても、面倒なことはなるべく自分で背負おうとするのは無理もないことだ。だが、それでも、少しだけでも、ジェイドの背負うものを分けて貰うことが出来なくても、せめてそれを支えることくらいはさせて欲しいとガイは思う。
「――そうですねぇ、なら存分に役立って頂きましょうか」
 実は身動きが取れないとは云っても案外やることはあるんですよー、とジェイドが言った。
「はは。お手柔らかに頼むよ」
 相変わらずのジェイドの調子に合わせ、軽い調子でガイは返す。それでほんの少しでもジェイドが楽になるのなら喜んで、と心内で告げて。

 暫く雑談を交わした後、ルークに呼ばれたガイが部屋から出て行ってからジェイドが零した言葉を、ガイは知らない。
「…既に、十分頼りになっていますよ」
 貴方が居るからこうして余裕を持っていられる。それは戦力的にも――精神的にも。
 何より、ジェイドがああしてやや無茶で突飛なことを言うのは、ガイがフォローに回ってくれると思っているからだ。そして相手が年下――特に子供である場合、ガイは時折少々行き過ぎな程、気を配る。だからこそのあの態度なのだ。
 後に彼がフォローに回ることが出来なさそうな場合、ジェイドは冗談の類を口にはしない。他人をからかうことで自身が楽しんでいないとは云わないが、どちらかというとその行為はジェイドのガイに対する甘えだった。尤も、ガイはそれを理解していないだろうが。
「しかし、ああ言われるのも悪くありませんね」
 口元に笑みを浮かべ、ジェイドは機関室へ向かった。