タルタロス襲撃後~セントビナー到着前

 ルークが人を切る決意をした日の夜、寝ずの番をしていたガイにジェイドが話し掛けた。
「意外でしたね」
「何がだい?」
 ルークとティア、ミュウ、そしてイオンは既に眠っている。積極的に戦闘をしている訳ではないとはいえ、それなりの回数をこなして来た。 増して慣れない環境という事もあり精神的にも負担があるのだろう。寝顔に疲労の色が見てとれる。
 そんな子供達を尻目に、疲労の陰など一切見せない軍人が口を開いた。
「ルークが人間を斬ることに対して、貴方は一切の慰めも意見も口にしなかったでしょう」
 人を殺すのもやむ無しと告げたティア、その上で人を殺さない生活もあることを告げたジェイド、軍人でないのだから悩むことも無理ないのだと言い優しく諭したイオン。各々が各々の言葉と立場でルークに語ったが、ガイは――ガイだけはそれをしなかった。ガイはただ、人を殺すことに関する事実を告げただけだ。ルークがどうすべきなのか、どんな道があるのかを明示はしなかった。
 主人と使用人と云うよりも弟と兄のようなルークとガイの様子からすると、アドバイスのようなもの程度は口にしても良さそうなものなのだがとジェイドは思う。
「どうするかは、ルークが決めることだからな」
 静かな声でガイはそう言った。
 確かに、使用人は主人の意思に口を挟む権利を持たない。だが、その言葉にはそれ以外の意味があるようにジェイドには聞こえた。
「それに、アイツは将来国を動かすような立場になるんだ。直接手を掛けなくても、たった一言で何千何万の命を奪うことが出来る立場に」
 だから、冷たいようだが今回の事は良い経験になったんじゃないかな、とガイは口にする。
 ジェイドが認識していた以上に、このガイと云う青年は達観した物の考え方をしているようだ。恐らく、今行動を共にしている人間の中で打算も同情も無く一番冷静にルークを見ていたのはこの青年だろう。
「まあこのままであれば、そうと思わずに命を捨てる決断をするような人間にはならないでしょうね」
 国の為に命を切り捨てる選択が出来ないような施政者では困りますが。そうジェイドが言うと、ガイはそれもそうだなと苦笑した。