それはほんの気紛れだった。
このところ忙しかったせいか珍しく人前で眠っている彼の陽光に輝く金の髪があまりに美しく見えたものだから興味半分で触ってみようか等と思ったのだ。
薄く目を閉ざした彼の陽の光のような髪を撫でると彼はあの蒼い蒼い瞳を隠したまま透明な涙をほんの僅かにだけ零しごめんなさいと呟いた。
常日頃あまり笑顔以外の表情を浮かべぬ彼の涙を見た驚きに頭を撫でる手を止めたがしかし彼は恐ろしく透明な涙を見せながらごめんなさいごめんなさいとひたすらに繰り返していた。
彼は彼自身の過去を思い出した。それは辛い記憶でだからこそその時からずっと封印されていたのだろうことでだがふとした切欠で彼はその忘れ去っていた過去を全て余す所無く思い出したようだった。
忘れていた事に罪悪感を感じているのか自分一人が生き残った事を申し訳なく思っているのか護る事の出来ない無力であった自分を責めているのかそれは彼と違う人間である私には分からない。聞くつもりも無ければ恐らく彼だって話す気も無いだろう。
彼は常に一人で何もかもを背負っていこうとする。それは憎き仇の懐に飛び込み復讐の機会を窺っていた生活を長い間送っていたせいかそれとも天性の彼の性分というものかは分からない。だが目の前のこの子供は事実としてこうして痛みを誰に訴えることなく日々を過ごしている。今日今この瞬間彼がこうして僅かながらも涙を零している事さえ恐らく奇跡的なのではないか。
それがあまりにも痛々しく不憫に思えたので私は優しく優しく彼を包み込むような気持ちで頭を撫で続けた。せめて夢の中ではこの美しい子供が何不自由なく幸せにあって欲しいと願いながら。
何て身勝手なと思わなくも無い。私は彼から全てを奪った原因を作った張本人だ。そんな私がそんな願いを抱くなど。
たった一人の子供を幸せにする事も出来ずただそれしかできない自分を酷く恨めしく思った。