不毛だ、と思う。
幾度これに関する会話を交わして来たのかは最早定かでは無いが、話の着地点が双方の望む所に収まった試しなど一度もなかった。…そもそも、各々の望む所が離れているのだから当たり前なのかも知れないが。
「…貴方、それで何台目ですか」
溜め息を吐きながらジェイドはそう口にする。
いい加減このやりとりは不毛だとは思うのだが、それでもやはり問わずには居られない。
「………に、じゅう…に、こめ…だと思う…」
流石に後ろめたさは感じるのか、目を逸らしながらおずおずと告げる。
にじゅうに。22個目。途切れ途切れではあるが確かにガイはそう言った。
「ガーイ、貴方いくつでしたっけ?」
「21…」
「とうとう自分の年齢を超えた訳ですか」
言ってから、ジェイドは再び溜め息を吐く。やはり彼の趣味は分からない。
「い、いや、だってさ、ワンコインで売ってたんだぜコレ!何千…いや何万出して買う奴だっているような物がそんな値段で売ってたら、そりゃつい買っちまうだろ?!」
ガイが言っている事は分かる。プレミアだか何だかは知らないし特に知るつもりも無いが、世の中には金に糸目を付けないマニアがいて、(例えジェイドにとってはただのガラクタであっても)コレがそのマニアが欲しがるような品なのだろう。それは認める。
が、それとこれとは話が違うのだ。
「だからと云って古いカメラばかり買い漁ってどうするんです。両手足の指に余るような量を使いこなせるんですか?」
そう、ガイが22個も買い集めているのはカメラなのだ。しかも、所謂クラシックカメラという古いタイプの。
デジタルカメラが一家に一台あれは大抵は事足りるこの御時世に、フィルムを使用するというだけではなくピントや露出、果ては巻き取りですら手動で行うような古いカメラばかりをガイは集めている。手間ばかりかかるそんな物の何が良いのかジェイドにはさっぱり分からないのだが、ガイにとってはとても魅力的な物であるらしい。
「ちゃ、ちゃんと全部使うさ!」
「先日買ったのは壊れていたような気がするんですが?」
確か3日程前にガイが「ジャンクコーナーで見つけたんだ!」と興奮気味に見せて来たのはシャッターが下りなくなっているカメラだった。ガイが早速分解しながら「このパーツがイカれてるんだなぁ」と呟いていたのをジェイドは記憶している。
「あれは大した故障じゃないから部品さえ変えれば動くようになるんだ!」
「一緒にその部品まで買ったと?」
クラシックと呼称される程に古いカメラなのだ。それに使用されている部品も相応に古く入手困難であるという事は想像に難くない。代替品があるとしても、あまり安い値段ではないだろう。
「それは、ディストが持ってるからくれるって…」
「またあの馬鹿の所に行ったんですか」
「あ…、いや、ギンジがディストに会うついでに聞いてくれてだな…」
ディストの名が出たことによって明らかに機嫌が下降したジェイドの声に、ガイの浮かれていた気分が一気に引き戻される。
ガイにとってディストの名は尊敬と憧れを綯い交ぜにした名前であるが、ジェイドにとっては大抵の場合地雷そのものであった。幼馴染であるのに何故そうまで毛嫌いするのか今一つ理解出来ていないガイには、ジェイドのそれは嫉妬であり原因が自分にあるのだとは想像も付かないだろう。
「で、何時なんですか」
「へ?」
「どうせまた部品を貰う為だの修理してもらう為だのと理由を付けてあの馬鹿の所に行くのでしょう。それが何時かと聞いているんです」
溜め息を吐きながらジェイドが言う。
「あ、え、今度の休みだけど…?」
「でしたら私も一緒に行きます。言っておきますが貴方に拒否権はありませんからそのつもりで」
些か混乱しているらしいガイに「勝手に行ったらこのカメラ全て廃品回収に出しますからねー」と告げると、即座に「ふざけるな!」と返って来た。
例え混乱していても大切なカメラの事には即座に反応する辺りが非常に彼らしい。偏執狂と言うと怒って反論してくるが、ガイが偏執狂でなければ誰が偏執狂なのだとジェイドは苦笑する。その偏執狂である所も、多少問題はあれど彼の微笑ましい一面とは思うのだが。
「それと、次カメラを買う時には事前に相談してください」
「相談したらアンタ全部ダメって言うだろ」
「似たような物なら言うかも知れませんが。まあ現物を見てみないと何とも言えませんねぇ」
「…善処する」
「とりあえず、暫くは控えて下さいね。最近立て続けて買って来ていたでしょう」
「……努力は、する」
さて一体いつまで我慢が出来るのだろうか。それを予想してみるというのも面白いかもしれない、とジェイドは思う。少なくとも数日間はやきもきしているガイを見る事が出来るだろう。
「結構です。まあ、私も別にカメラが嫌いな訳ではありませんしね」
「そうなのか?」
少し意外そうにガイが聞き返す。その様子に少し微笑みながらジェイドが言う。全く、可愛いものだ。
「ええ。それにしても貴方の場合は度を超えていると思いますが」
「…悪かったな」
不貞腐れたようにガイが言う。
カメラそのものには全く興味が沸かないが、こうして子供のような反応をするガイを見られるのだから、ジェイドはカメラが嫌いではなかった。ここまで執着されるものに嫉妬心が沸かない訳でもないが、その苛立ちは不詳幼馴染にぶつけて、ただただ可愛らしいガイを見ていれば良い。
「次の休みが楽しみですねぇ」
「あんまりディストを苛めてやるなよ?」
「アレを苛めた事などありませんよ。するのは教育的指導とおしおきだけです」
「一般的にはそれを苛めるって言うんだ…」
カメラに熱中するガイを写す為に、自分もカメラを買ってみようかと思うジェイドであった。