此方の気も知らないで - 2/3

 昨日はどうだった、という言葉に「何がですか」と返って来たのはピオニーにとって完全に予想外だった。
「何がって、昨日はジェイドと食事したんだろう?」
 ジェイドへのプレゼントに例年の如く酒を渡しながら呑みに誘ったのだが、「すみませんがガイとの先約があるんですよ」と断られたのは昨日の事だ。
「しましたけど、普通…だったと思いますよ。それが何か?」
 訳が分かっていないらしいガイを見て、ピオニーは状況を理解した。
「アイツ、何も言ってないのか」
「陛下はさっきから何の話をしてるんですか?」
 本人が告げていないなら黙っているべきなのだろうが、ここまで言って何も言わない訳にもいかないだろう。
 ひとつ溜め息を吐いて、ピオニーは口を開いた。
「昨日はジェイドの誕生日だったんだ」
「え?」
 昨日――シルフリデーカン・ローレライ・22の日。その日はジェイドの生まれた日だった。
「本当…ですか?」
「残念ながらな」
 驚いた様子のガイに諦めたようにピオニーが返す。ジェイドに文句なり言われるだろうが、もうこうなったら後は野となれ山となれだと自棄になる。
「ブウサギはいいから、ジェイドの所に行ってこい。言いたいことのひとつやふたつあるだろ」
「ですが…」
「いいからホラ。何なら勅命でも出すか?」
 今なら朝礼も終わっただろうしさっさと行って、何ならぶん殴ってこい。そこまで言ってやっと、ガイは軍部へ向かった。
 そもそも、恋人同士であるにも関わらずジェイドが自分の誕生日をガイに告げないのが悪いのだ。どうなろうと自分のせいではない、と開き直って事の顛末を知る為にガイの帰りを待った。

 ――のだが、予想より遥かに早いガイの期間にピオニーは驚きを隠せなかった。
 それに、気のせいか行きよりも機嫌が悪くなっているように見える。
「何だ、ジェイドは居なかったのか?」
「居ました」
「なら」
「殴って、そのまま帰って来ました」
「な――」
 ガイの言葉にピオニーは絶句する。
 確かに何ならぶん殴ってこいとは言ったが、まさか本当に殴って来るとは。
「仕事にかかりますね」
 それ以上言うべき事は無い、と云わんばかりにガイはブウサギの世話を始めてしまった。
 この青年にとって誕生日というものは、様々な意味でとても大切なものだ。それはきっと彼にとって親しい人の誕生日についても変わらない。
 だから、その誕生日を教えなかった恋人に対して怒りを感じるというのは、まあ分からなくもない。
 だが、普段温厚な彼が、殴る等という直情的で暴力的な手段に出るとは露程も思わなかった。
 そういった行動を取った理由を尋ねたくてもガイ本人は全く話す気が無さそうだし、殴られたジェイドにも理由など分からないだろう。むしろ、今一番理由が分からず困惑しているのはジェイドの筈だ。
「…失敗したなぁ」
 ガイに聞こえないように、ピオニーはそう溢した。
 とりあえず、ジェイドへの言い訳を考えておかねばなるまい。