気を抜いたのが悪かったのだろう。その点は自分の落ち度であると素直に認めよう。
だが、腹の探り合いをしている――しかも同性の相手にキスをされるだなんて事態を誰が想像するだろうか。
「っ!」
唇を奪いあまつさえ口腔内に侵入してきた相手の舌を思いきり噛んでやると、相手は漸く顔を離した。
ただでさえ不快な出来事であるのに、口の中に相手の血の味が広がってより一層気持ちが悪い。
「大佐殿にこんな趣味があったとはな」
手の甲で口を拭いながら睨み付ける。気分が悪い。
「おや、こんな趣味とは?」
舌を噛まれたというのに余裕の表情で微笑している男は、妖艶ですらあった。だが、それだけだ。嫌悪こそすれ惹かれるなんてあり得ないだろう、と男の顔を見てつくづく思う。
「生憎、オレには男とディープキスするような趣味はないんでね」
相手が返してきた質問には答えず吐き捨てた。
ルークの様子からするに無いとは思うが、まさかこの男、ルークにも同じようなことをしようと思っているのではあるまいなと警戒の目を向ける。とりあえず、ルークとの相部屋は避けるべきだろうか。イオンとも避けた方が良いだろう。だが、そうすると2人部屋しか確保できなかった場合、この男と同室になるのは自分以外に選択肢が無いことになる。
止むを得ないとは理解しつつ、成り行きとはいえ本来なら一切関わり合いたくない人種と関わってしまった不運に悪態を吐きたくなる。
「私にだってそんな趣味はありませんよ」
「どの口がそれを言うんだ!」
白々しい言葉につい調子が荒くなる。感情を露にすればする程相手の思う壺だとは分かっているが、此方にも我慢の限界というものがある。
「いえ。キスをしたら流石の貴方も相当嫌がるだろうなと思ったので、つい」
言葉を額面通りに受け取るなら、つまりは純粋な嫌がらせだという事になる。嫌がらせの為に男にディープキスまですると。
「単なる嫌がらせにここまでするとは、マルクトの大佐っていうのは随分と暇人なんだな」
「刺激が無ければ脳は退化しますからね」
理由になっていない理由を口にする男に殴りかかりたい衝動に駆られたが、殴っても相手の思う壺だと思いぐっと堪えた。
やはり、この男は最悪だ。