珍しく彼が訪ねて来ないなと思い、幼馴染へ仕事の話ついでにそれとなく聞いてみると今日は休暇を取っているのだと云う。
そこでふと今日の日付に気付き、それなりに忙しかったとはいえ己の迂闊さに呆れと腹立たしさを抱く。
それを見て幼馴染は全てを察したらしく、「今日はもう上がれ」と掌をヒラヒラと振った。
これ以上借りは作りたくないが、そんな事を言ってもいられない。今は彼の許へ向かいたかった。短く礼を告げ踵を返す。
宮殿を出ると、空は緋色に染まっていた。
「此処に居たんですか」
「――旦那か」
ガイはグランコクマの人気の少ない海辺に居た。屋敷の者に聞いた話を鑑みるに、日がな一日此処で海を見ていたのだろう。
この街に居ないかも知れないと思っていたので、この場所にガイが居たことに安堵すると共に少しばかり意外だなと思う。
「あまり海を見詰めていると、身投げすると勘違いされますよ」
敢えて軽い調子で茶化すように言うと、確かになぁとガイが苦笑した。
「でも、今日は海を見ていたかったんだ」
「……ホド、ですか?」
今は亡い海に囲まれたガイの故郷。魔界に沈んで行った其処を想う為に此処に居たのだろうと思ったのだ。
「いいや、ホドを見ようとするなら他に行ったよ」
しかし、ガイから返ってきた言葉は予想外のものだった。
「此処の――グランコクマの海を覚えておきたくてさ。忙しくて、実はあんまりしみじみ見たことってなかったしな」
誕生日に思い出す海を此処の海にしたかったんだ、とガイは薄く微笑んだ。
「そう、ですか」
「ああ」
もう帰ろうか、というガイに動かされて彼の屋敷に向かって足を運ぶ。
何故だか私は衝撃を受けているようだった。そんな此方の胸中を知ってか知らずか、ガイは穏やかに微笑う。
「…今度、」
「うん?」
「今度海を見る時には、一緒に連れて行って貰えませんか」
おこがましいかも知れない、と思いつつも願いを口に出した。その事を我ながら意外に思う。
こんな事を言いだしたのは、海を見る彼の姿がどことなく寂しげに見えたせいなのだろう。
「そうだな。此処の海を思い出す時に、旦那との思い出も一緒に思い出せるってのは――幸せかもしれない」
是非お願いするよ、そう言うガイの顔を見て私は目を細めた。