「なあ、ジェイド」
唐突に彼は口を開いた。
その瞳は愁いと悲愴感に満ちており、それでいてとても美しかった。
「なんで、アイツなんだろうなぁ」
呟く彼は碧く透明な瞳を何処にも向けていなかった。だが強いて云うなら、あの赤毛の子供へ、だろうか。
「代わってやりたいと思うのは、罪だと――驕りだと思うか?」
聡明な彼は詳細を知らなくとも全てを悟ってしまっている。あの子供が何を覚悟し、何を望んでいるのかまでを悟り、知らぬ振りをしている。私を問い詰めることすらせず、ただ自身が感じたものが間違いであれと願っている。それがどんなに辛いものか、欠落している自分には想像する他ない。
だがそれでも。彼が己の身を斬られるより辛く思っていることくらい、分かるつもりだ。失う前から喪失感を味わっていることくらい、無力感を味わっていることくらい、分かっているつもりだ。
「貴方がそう思うのなら、そうなのでしょうね」
それでも、彼が辛い思いをしていると分かっていても、私は彼を慰めることが出来ない。私は人を心から労るということを知らないのだ。
そして、不用意に彼を傷付けるようなことはしたくなかった。単に自分が傷付きたくなかっただけかもしれないが。
誰を救う事も無く、誰を絶望させる事もなく、夜はただ更けて行く。
それはあまりにも救いの無い事実だった。