刑事ドラマの幻覚2

華村さんの役(多重人格の連続殺人犯)のスピンオフの導入のような何か。
オフショクリスが来ないから設定とか展開とか深く考えずに八つ当たりで書いたやつ。


 
 
 
『おい!』
 自分を呼ぶ声で目を覚ますと顔馴染みの顔が目に入る。表向きは患者と医師という関係だが、医師は目の前の男を患者だと思って接したことはなかった。――尤も、診察やカウンセリング対象を患者だと思って接することの方が少ないのだが。
『…君か』
『やァっと起きたか』
 呆れたような声を聞きながら身体を起こす。自分の頭に触れると乾ききっていない血が掌に付着した。医局の廊下で殴られた後、今居る倉庫に引きずり込まれたところまではぼんやりと記憶しているが時間までは見ていなかったなと思う。患部と血の乾き具合からすると、一時間程度は経過しているだろうか。
『どうして君が此処に?』
 今日は確かに受診の日であった筈だが、院内の人間でもあまり足を踏み入れることのない倉庫に彼がいるのは不自然である気がした。
 鈍器を使った挙句、対象が生きているという事から考えても彼の犯行ではないだろう。そもそも彼が襲った犯人なのであれば声をかけて起こす理由が無い。
『アンタの部屋に入ったら「面白いモンが一階の倉庫にあるから見に来い」ってメモがあったんだよ』
 医師が不在の部屋に患者が立ち入ることは本来まずない。とするとメモの差出し主は男が来ることを分かった上でメモを残したのだろう。
 男が今日ここを訪れることを知っているのは男本人と医師本人だけである筈なのだが、どこかから情報が漏れたのだろうか。警察に協力しているということもあって盗聴器のチェックは怠っていないので、そうなると直接盗み聞きをされたという事になる。そこまでして殺したいと思われていたのだろうか。恨みを買った覚えはないが、何がその人を突き動かしたのか是非聞いてみたいなと思う。本人に直接そう告げれば恐らく激昂させてしまうだろうが。
『ンで来てみたらアンタが倒れてたワケだけどよ……なんでこんな愉快なことになってるワケ?』
 しかしそれなら何故こんな場所でわざわざ男を呼び出す必要があるのか。そもそも殺すのであればそのまま殴り殺せば良かったのだ。どうにも目的が見えてこない。
『さあ?やった本人に動機から全て聞いてみないと分からない』
『ソレ、ヤったヤツ分っても目の前で言うんじゃねーぞ』
『そうだね、気を付ける』
 そんな会話を交わしていると、倉庫の外から悲鳴と物音が聞こえてきた。何処だと言いながら自分の名前を叫ぶ声も聞こえる。
『私の部屋で死体でも見つかったかな』
『かもなァ』
 男は興味無さげに応えたが、その表情はどことなく嬉しそうであるように思えた。
『面倒は御免だし、俺ァ戻るけどアンタは?』
『今顔を出したら捕まるだろうしね。君と一緒に行こうかな』
 診察もまだだしね、と言うと、こんな時でも診察するつもりなのかよと笑われる。何が面白いのか理解出来ないが、機嫌が良いのは悪いことではないだろうと判断をする。
『ホラよ』
自分が立ち上がると同時に男が手を差し出してくる。それを掴んで立ち上がった。