事の発端はプロデューサーの「何か誕生日プレゼントを考えて持ってくるように」という一言だった。
ここまで堂々と自分でプレゼントを強請るというのも珍しいなと思っていたらそうではなく、Legendersのメンバーである古論クリスの誕生日が近いからということらしい。
315プロでは所属アイドルの誕生日をユニット内で祝うのが恒例になっているらしく、雨彦もこのプロダクションに入ってからその様子を何度か見かけたことがある。
親睦を深める為に、我らがLegendersもそれに倣おうということだった。
断る理由もないので誕生日当日にプレゼントを持参してくることを了承する。
その際にプロデューサーは何を渡すつもりなのかを尋ねると、食えない笑顔で「当日のお楽しみということで」と返されてしまった。雨彦や北村と被らない自信もあるようで、なら楽しみにしておくよと口に出す。古論のことだ、何を貰ったのかと聞かなくても向こうから見せに来るだろう。
「さて、何を渡すかね」
事務所のソファに腰掛けながら雨彦は思案する。
日用品か食べてしまえるものが気を使わせることもなく手軽で良いかと思うが、持っているものを贈っても面白みに欠けるし、食の好みについても生憎魚介類が好きという酷くざっくりとしたことしか知らない。
さてどうするか、と思案したところでふと、彼がレッスンの時には長髪をヘアゴムでまとめていたことを思い出す。頻繁に磯の匂いをさせたまま事務所に来るほど海に潜るのが好きなようだが、あの髪の長さは海中でも些か邪魔になるであろうし、きっとその時にも髪をまとめているのだろう。
「なるほど、ヘアゴムか」
お守りとして、編んだヘアゴムをプレゼントするのも悪くないのではと思い付く。ヘアゴムを編んだ経験はないが、言ってしまえはアレも紐であるし大差は無いだろう。
以前プロデューサーに古論クリスの印象を問われた際、『魂を海に囚われている』と評した程海に執着を持つ彼が陸に戻って来られるように。
彼には海の素晴らしさを理解して貰うという目標もあるし、家族や仕事仲間という陸に残して来た物もあるだろう。彼自身に汚れを感じたこともない。故に然程心配はしていないのだが、まあ念の為という奴だ。同じユニットのメンバーとなった者が居なくなるというのも後味が悪い。
それに、実用を兼ねた装飾品ならば貰って困るということもなさそうである。
何しろ古論クリスという男は整った外見に反して、頭にカジメを付けたまま事務所まで来るほど自分の見た目に頓着が無い様子であるし、実際レッスンの時に使用しているヘアゴムは装飾品というより単なる実用の品だった記憶がある。
「よし、決まりだな」
そうと決まれば後は材料の買い出しをするのみだ。必要なものを頭の中でリストアップし、入手先の検討を付ける。
ふと、北村は何を贈るつもりなのかと思うが、まあモノが被るというは無いであろう。
Legendersはあまりオフでの付き合いが無いユニットではあるが、こういったイベントごとに乗るのもたまには悪くないなと思いながら、雨彦はソファから立ち上がった。