事務所のラウンジで適当な本を手に取り目を通している時に、通りがかった事務員の山村賢から「クリスさん、誕生日プレゼントすごく気に入ってるみたいですよ」と想楽が聞いたのは古論クリスの誕生日から数日経った頃の事である。
プロデューサーの発案…というよりも315プロの慣習で、Legendersのメンバーである古論クリスの誕生日を祝うことになったのだ。
断る理由もなく、嫌だとも思わなかったので祝うこと自体は構わなかったのだが、プレゼントに関しては各々に任せるということで、想楽は頭を悩ませた。
何せ相手はあの古論クリスである。海にまつわるものであれば何でも喜びそうだが、それ故にプレゼント選びの参考になるような具体的な彼の言動や嗜好に心当たりが全くない。雑貨屋の店員をしていただけあってか、ある程度相手の要望があれば適する物に心当たりが付くのだが、「海」などという酷くざっくりした情報だけでは流石に絞りきることが出来なかった。
増して、好きな分野の物というのは自分で集めがちでもある。面倒だと他人に思わせるほどに海に対して並々ならぬ情熱を持ったクリスが持っていなさそうな物、という点でも自信が今一つなかった。
「筆記用具…は好みがあるし、お土産用の物とかだったらもう持ってるかも知れないよねー」
かつての職場で、陳列された商品を眺めながら悩んでいると、視界にカラフルな物が映り込んだ。
手に取って見てみると、クリップの箱のようだった。パッケージに魚の形を模したカラフルなクリップが恐らく原寸大でプリントされている。
そういえばと、クリスが事務所で英文の書類を読んでいた姿を思い出した。
流石にアイドルになるにあたって大学の仕事は辞めたらしいが、海洋学の研究自体は続けているようで度々事務所などで英文で書かれた書類を読んでいる姿を見かけたことがある。
その際に使えるだろうし、既に持っていてもクリップであれば困ることは無いだろうと思い想楽はクリスへクリップを贈ることに決めた。
だが、考えてみれば彼は成人をとうに過ぎた年齢の男性であるし、あのクリップは流石に可愛らしすぎたかな、と贈る段階で気付いたので少々気後れしてしまったのだ。
もっとも、それしか用意が無かったし後悔をしたところでどうしようもなく、結局それを渡したのだが。その場では喜んで貰えたようだったのだが、本当に気に入って貰えたのかは少し気になっていた。まあ、古論クリスという人は表面上喜んでおくというようなことが出来るタイプではないと思うのだが。
「クリスさん、書類まとめるのに使ってて、自慢して見せて来たんですよ。『想楽がくれたのです。可愛らしいでしょう』って」
すごく嬉しそうでしたよ、と告げる賢までどこか嬉しそうな顔をしていた。
「そうですか。教えてくれてありがとうございますー」
礼を告げると賢は「ああ、社長に届けなきゃいけないんだった」と言いながら慌ててバタバタと去って行った。
「贈り物、気に入られれば、嬉しくてー。たまにはこういうのも悪くないかもねー」
次に誕生日が来るのは雨彦だった筈だが、今度は何を用意しようか。などと考えながら、ふふ、と笑ってひとりごちた。
2016年のクリス誕のやり取りを受けて