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思いついた文をとりあえず書き散らす場所です。まとまったらtextに行きます。

黒猫と私

 自転車のスタンドを倒し、所定の場所から自転車を引き出す。
 と、黒い猫が音も無く何処からかやってきて、自転車のカゴへと入り込んだ。
 下校時間は毎日バラバラなのに一体どうやって私が帰ることを察知するのだろうか、と思案する私をまるで「まだ帰らないの?」と問わんばかりに一対の黒い目が見つめる。
――考えても無駄なことはとうに分かっているのだけれど。
 この猫はどうやら現実のものではないのだから、現実の理屈を当て嵌めようとすること自体が間違いなのだろう。きっと、私の知らない理屈で存在し行動しているのだ。
 周囲に人気が無いことを確認して、私は黒猫に声をかけた。
「帰ろうか」
 返事のつもりか、黒猫は目を細めて私にしか聞こえない間延びした声をあげた。


 この黒猫と初めて出会ったのは、高校に入学したばかりの頃だった。
 ただ単に登校する際この猫が裏門の門柱の上で丸くなって寝ていたのを見つけただけという、特に劇的でも何でもない出会いだ。
 更に言うならば、猫に限らず動物全般に苦手意識も好意も持っていない私にとってそれは単なる景色であった。私の主観では出会いとすら呼べはしない。
 出来たばかりの友人等と交わす会話にも上がることの無い、それだけならば忘れてそれきりになっていたであろう程度に興味の無い事柄。今まで幾度もあったろうそれらのように、忘れていくだけのものだったのだ。本来なら。

 その日の下校時にも、その猫は朝と同じ場所で同じように丸くなり眠っていた。
 動物にさしたる興味は無いが、この黒猫は一体この場所の何が気に入ったのかということが少し気になった。
 高校に入学して一月余りが経つが、今までこの門柱の上に猫が居たことなど記憶している限り一度も無い。にもかかわらず、この猫は朝も夕方もこうして同じ場所で眠っている。それが少しだけ不思議だった。
 もしかしたら死んでいるのではないかとも思ったが、そうであれば猫好きであろう誰かが気付いて騒ぎになっている筈だし、何より遠目からでも呼吸の為に身体が上下しているのが分かったので、まず生きていると私は判断した。
「朝からずっと居るのか、一度離れてまた戻ってきたのかは知らないけど、そんなにそこが気に入ったのかい」
 猫相手に質問して答えが帰ってくるとは思えなかったが、私は口に出して質問をした。周りに誰も居ないことは確認していたし変に思われることも無いだろう。そんな意味の無いことをしてみた理由は、まあ、気分的なものだ。
 門柱の上は特別温かい訳でもない。猫が居るのとは反対側の門柱を触って確認する。石で出来た門柱はどちらかというとひんやりしていたが、涼を取るにはまだ早いし、ずっと居れば温まってしまうだろう。あるいは猫が居る方の門柱は何か仕掛けがしてあって、条件が違うのだろうか。
 いずれにしてもこれだけではやはり理由が分からないな、と首を捻っていると、門柱の上に居た猫がじっと此方を見つめていることに気が付いた。
「何だい、何か言いたいことがあるのなら日本語で話してくれないと分からないよ」
 猫相手に何を言っているのだ、と思われるだろうが、紛れもない事実なのでそう言う。言いながら、ということは猫に対しては猫語で喋らなければ意思が通じないのではなかろうか、と思ったが、生憎私が不自由なく使えるのは日本語だけだったので仕方ないまあいいかと開き直る。

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チョコレートカフェより

 馴染みのカフェの、とある絵がかけられた隅の席。自分達が座るのはいつも決まってこの席だ。
 二人用の小さなテーブルに向かい合い、自分が壁際、奴が反対側に座るのも半ば決まり事になっている。
 他の場所で待ち合わせてこのカフェにやって来たりもするし、自分が一人でやって来ることもある。奴も恐らくそうだろう。
 ただ、共通しているのは自分も奴も、お互い以外を連れてこのカフェには来ないということだった。
 それも別段大したことではない。元々自分も奴もここを贔屓にして通っている所謂常連であり、その流れで面識を持っただけのことである。
 この店は、割合人の行き来の多い通りにありながら窓も小さく、また若干奥まって設置されている出入り口のせいで一見の客には少々入り難さを感じさせる造りをしている。
 更に言うなら店舗は半地下になっており、数段の階段を下ってからが客席になっていた。マスターがいるカウンターは更にそこからもう少し踏み込んだ所だ。
 半地下であるせいなのか、あるいは遭えてなのかは自分にも分からないが、店内は薄暗くなっており、カフェというよりもバーのような雰囲気を出している。
 そんな環境だからか、この店の客層は割合高めであり、多くの学生らのように多人数で騒ぎ立てる者も居ない。
 一人で居る時はなるべく静かにすごして居たい自分にとってこの店は中々に理想的な場所であった。

 その日は一人で店のドアをくぐり、いつもの席へ向かう。先客は居ないようで、反対側の席も空いており荷物なども置かれてはいない。
 今日は静かに読書をしたいと思っていたので丁度良い。気温が高い屋外をしばらく歩いてきたことだしアイスコーヒーでも頼もうか、と思っていると店の奥から聞き慣れた騒がしい声が聞こえて来た。
「今日は地味なのは来てないのか?」
 このカフェに来る客に多人数で騒ぎ立てる者は居ないが、一人で騒がしい者は居る。奴がそうだ。特に大声をあげる訳でもはしゃいでいる訳でもない――どちらかといえば落ち着いた喋り方だ――が、奴を一言で表現するなら騒がしい以外に無いだろう。ここまで見事に騒がしいといっそある種の才能なのだと思う。
「趣味の悪い奴にそんな事を言われる筋合いは無いと思うが」
 予定を狂わされて少々げんなりしながら奴に声をかけた。
「なんだ、今来たのか。仕方ないだろう事実なんだから。ああ、マスター私はいつものを」
「お前の基準では殆んどの人間の服装は地味になるだろう。――アイスコーヒーをひとつ」
 マスターに注文を告げながら奴が此方の席へ歩いてくる。
 暗い室内でも奴の周りは明るく見える気がするのだから不思議だ。服装の色合いが明るいからという訳ではなく、形容し難いが奴の周りは雰囲気全てが陽の下のように明るいのだ。
 何か不可思議な能力でも使っているのではあるまいか、と密かに思っている。
「その中でもお前は飛びぬけて地味だ。何しろ彩度のある服を着ているところを見たことが無い」
「そんなおめでたい格好よりマシだと思うがね」
 おめでたいと表した奴の格好だが、今日は原色が入り混じった目に痛い柄のアロハシャツに蛍光色のハーフパンツ、足元はビーチサンダルのみといった出で立ちである。かろうじてと言うべきか、奇跡的と言うべきか、不思議なことにこんな派手なものばかり着ている割にちぐはぐな組み合わせではないが、一体何を考えて奴がこんな格好をしているのか自分には理解出来ない。
「おめでたいのは悪い事じゃないんだから良いだろう」
「常におめでたいとありがたみがなくなるし何より煩い」
 お前は只でさえ騒がしいんだから服装くらい大人しくしたらどうだ、と言うと奴から、ならお前は只でさえ地味なんだから服装くらい派手にするべきだな、と返って来た。
 騒がしいというのは公害にすらなるが、地味で他人に迷惑をかけるというのは聞いたことが無い。
「まあこの話題はこの辺りでお開きにしよう」
 確かにお互いの趣味が合わないのは既に百も承知なので、これ以上この話題で話をしていても仕方が無いように思えた。
 だが、素直に奴の言う通りにするのも癪だったので、少しばかり言い返してみようと思う。
「単に『話し相手になる』というのが約束なんだから無意味な話でも構わないんじゃないのか?」
 意地悪気だという自覚のある笑みを浮かべながら言うと、奴はこれまた意地の悪い笑顔を浮かべて、
「それは私が退屈だから駄目だ。お前だって話をするなら退屈でない方が良いだろ?」
 と言い放った。至極自分勝手な理由にも思えるが、まあ、確かにその通りではある。
 会話が一旦途切れた所で、マスターが注文した品を運んで来た。アルバイトのウェイトレスが居ることもあるが、この店は基本的にマスターが一人で切り盛りしているらしい。
 アイスコーヒーが一つと、アイスチョコレートが一つ。此方が飲むものは日によって変わるが、奴が此処で頼むのは必ずコレだった。冬場はアイスがホットに変わるが、中身は温度以外変わりない。
「お前は本当にソレが好きだな。飽きないのか」
「毎日飲んでも飽きない程度には好きだね」
「この店以外では間違っても頼まないクセにな」
 この店ではアイスチョコレートという名前になっているが、要するに他でいうココアのことである。
「味は好きなんだ。が、名前が悪い。ココロというのに音が似ているのが余計に気に入らん」
「可愛らしくて良いじゃないか、ココア」
「その可愛らしいのが、だよ」
 名前が可愛らしかろうが可愛くなかろうが、いずれにせよ甘ったるく、可愛らしい名前でも呼ばれる飲み物をこの店限定とはいえ体格の良い成人男性が好んで飲んでいるというシュールさにこの男は気付いているのだろうか、と時々思う。
「――ああ、そういえばそのコーヒーというのも好きになれん」
 “アイスチョコレート”を飲み切ってから奴が言う。喉が渇いていたのか何なのかは分からないが、殆んど一息で飲んでしまったようだ。好きだという割に味を楽しもうという気はあまり無いらしい。奴らしいと言えば奴らしいが。
「確かにお前がコーヒーを飲んでる所は見たことがない気がするな」
 黒い湖に浮かぶ氷をストローで突付きながら過去の記憶を漁る。奴といえばこの店のアイスチョコレートの印象が強いが、頻度としては紅茶を飲んでいることが多いように思った。
「苦い中に無理矢理風味を見出して何が良いんだか。理解に苦しむ」
「紅茶好きのコーヒー嫌いは皆そう言うんだ」
「私は別に紅茶も好きではないけどな。それでもコーヒーよりはずっと良い」
 そこで言葉を切ると、奴はキャラメルミルクティーのアイスを追加注文した。
「紅茶の風味は無理矢理探さなくても分かるしな」
「それはお前の勝手な言い分だろう」
「少なくとも私の中ではそれが事実だ」
 主張を撤回する気はまるで無いらしい。この件に関して議論をするのが面倒になったので、溜息を吐いてから無言でアイスコーヒーを口に運ぶ。奴が何と言おうとコーヒー ――特にこの店のものは――美味いな、と思う。好き嫌いは個人の自由だが、この美味さが分からないのは勿体無いと言う他無い。

 奴を私が初めて見かけたのは数年前、このカフェでだった。とはいえ元々そう社交的な性格ではないので、その時は姿を見て随分と派手な人間がいたものだと思っただけだったのだが。

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この世界には魔法少女が実在している。

公式な記録では十数年程前、某地方都市に出現したのを皮切りに、全国各地でその存在が確認されるようになった。
各地で発見・確認された魔法少女は――時折唐突に姿を消し以後一切姿を現さなくなることもあるが――緩やかに数を増やし、現在は全国規模で見ればほぼ横ばいの人数を保っている。
どのくらいの人数が確認されているのかというと、市町村全ての数に対しては足りないが、都道府県の数よりは多いという程度だ。何なら北海道だけで5人の魔法少女の存在が確認されている。北海道というエリアに5人というのを多いと見るか少ないと見るかは各自の判断にお任せする。

実在してはいるが、彼女等がどこの誰なのかは判然としていない。

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