かわいいヒト

 ガイの様子がおかしい。
 声をかけても何かと用事をつけてすぐ何処かに行ってしまう。
 短い会話の際にも眼を合わせようとしない。
 普段なら執務室に顔を出す時間になっても顔を出さない。
 1つ1つ見れば些細な事だが、積み重なれば当人にとってそれは大きな事だ。それが大切な人なら尚の事。
 朝から妙な様子を見せるくせに何も言おうとしないガイに(いつものことではあるのだが)いい加減痺れを切らしたジェイドはブウサギの世話を終えたばかりのガイを捕まえ、詰め寄った。
「ちょっ、ジェ、ジェイド…?」
 困惑した声を上げたガイは両手を拘束され、ロクに抵抗も出来ない状況に陥っている。
「何なんだよ、一体…」
「それは此方のセリフです」
 苛立ちを隠すことなくジェイドが言った。珍しい行動にガイがビクリと肩を揺らす。
 怯えた様子を見て自分がしている事ながらガイのことを少々気の毒に思うが、自業自得なのだとジェイドは自分に言い聞かせる。
「遠まわしに会話を拒否したり、眼を合わせようとしなかったのは貴方でしょう?」
「そんなこと…」
「否定出来ませんよね、事実ですから」
「う…」
「このままでは納得できません。せめて理由を聞かせて頂けませんか」
「り、ゆう…?」
「ええ。私の事を嫌いになったのならそうと…」
「違う!」
 本気でガイが自分の事を嫌いになったと思っている訳ではない(気持ちが離れた所で素直に手放す気もない)が、ガイの反応を見る為敢えてそう言ったジェイドに、ガイが素早くそれを否定した。
 だが咄嗟に出てしまった言葉に続きを紡ぐ事が出来ないらしく「あー」だか「うー」だかという声を上げて頬を僅かに赤く染めて下を向いてしまった。
「どうしたんです?違うなら違うで、言って頂かないと分かりませんよ」
 胡散臭いと言われる笑みを浮かべ、ジェイドが言った。
「あー…、でも、その…」
「ガーイ?」
「――今日、エイプリルフール、なんだろ…?」
 思わぬ単語にジェイドは訝しげな顔をする。ますます頬を赤く染め、下を向いているガイには見えていないだろうが。
「そうですが、それが?」
 全く事情が飲み込めない。陛下辺りにでも妙なことを吹き込まれたのだろうか。
「キムラスカには、そういう習慣がないから、オレも今朝教えてもらって、知ったんだけど…」
「ええ」
「で、その、エイプリルフールは、嘘を吐かなきゃいけないんだろ…?それで、だな…」
「それで?」
「だから、…面と向かって嫌いだ、なんて、言えないじゃないか…!」
 相当恥ずかしいのだろう。首筋まで真っ赤にしてガイがそう呟いた。
 ジェイドは自分の予想が当たっていた事に嘆息したが、それよりもこの可愛らしい恋人が愛おしくなり、拘束した状態からそのままガイを抱き締めた。
「え、ちょっと、ジェイド!!」
「貴方という人は本当に…」
 可愛らしい事をしてくれる。
 恐らくは逆にすれば直接好意を伝えることになるが為に、面と向かって嫌いだと言うのが恥ずかしくて自分を避けていただなんて。
「結局言ってしまいましたけど、ね」
「あ…!」
 自分のした事に漸く気付いたのだろう、ガイは顔を真っ赤に染め、その顔を見られまいとジェイドの軍服に顔を埋める。
「何だってマルクトにはこんな習慣があるんだ…!」
「ああソレですが、正確には『嘘を吐いても許される日』なんです」
「へ…?」
「ですから、『嘘を吐かなければならない』という訳ではないんですよ」
「な、じゃあ、陛下にからかわれたって事かよ…!」
「そうなりますね」
「うっわ、はずかし…」
「良いじゃないですか、偶には。私も嬉しかったですし」
「あああああ、もう忘れてくれ…!」
「嫌です」
 語尾にハートマークを付ける勢いでジェイドが言うと、ガイはその腕の中で脱力する。
 はずかしいはずかしいと連呼するガイを宥めながら、陛下にどうお礼をしてやろうかと考えるジェイドだった。

 数時間後、宮殿の何処からか悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか。