此方の気も知らないで - 1/3

 朝礼を終え、いつものように執務室に入り仕事を開始する。
 提出されていた報告書に目を通していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「カーティス大佐」
「何だ」
「ガルディオス伯爵が大佐に用件があるという事ですが」
「通せ」
 書類に目を落としたまま応えると、ドアが開く音がした。そこで初めて目線を上げる。
「おはようございます。こんな時間に珍しいで…」
 ジェイドの言葉が不自然に途切れたのは、近付いてきたガイに顔面を殴られたからだ。全くの不意打ちに、情けなくもジェイドはガイのパンチをまともに食らってしまった。殺気を纏っていた訳ではないとはいえ、彼がやる気なら殺されていたかも知れない。訪問者がガイだったとはいえ油断していたことを遺憾に思う。
 一方で殴った本人であるガイの表情は不機嫌そのものだった。
「おはよう。じゃあ用件は済んだからオレはこれで」
 そうとだけ言ってジェイドに背を向け、部屋から出ていこうとするガイを呼び止める。
 腕を掴むなりして引き止める事も出来たが、この様子のガイにそれはあまり得策ではないと判断して手は出さなかった。今は普段温厚であるガイがこのような行動に出た理由を探る方が先だ。まさかジェイドを殺しに来た訳でもあるまい。
 一方的に殴られたのは癪であるし腹も立っているが、殴り返したい衝動に駈られる程子供ではない。
「突然何ですか」
 理不尽な仕打ちに怒りを滲ませた低い声で問う。そこいらの兵士ならば脅えて動けなくなるだろうが、ガイは臆した様子もなく相変わらずの不機嫌顔でこう言った。
「自分で考えるんだな」
 それだけ言ってガイは執務室から出て行く。少々乱暴な音を立ててドアが閉まった。
「一体何だと云うんだ」
 苛々を隠す事もせず、ジェイドはそう溢す。
 いくらなんでも理不尽にも程がある。やり場の無くなった怒りを持て余したまま殴られた頬に手をあて、ガイが出て行った扉を睨み付けた。

 机の上に置かれた承認したばかりの書類には、シルフリデーカン・ノーム・23の日と書かれている。