詠唱を終える前にガイが最後の一体を斬り倒した。
断末魔を上げながら事切れる様を視界の端に入れつつ他に敵が居ないことを確認して、集中を解く。
ガイの方を見やれば、腕から少しばかり出血しているようだった。象牙色のシャツに鮮血で鮮やかな模様が描かれている。
「見せなさい」
「この程度なら集気法で治せる」
素直に傷口を見せず治癒の為に技を発動させようとするガイの腕を無理矢理掴んだ。
結果、腕を少々捻られる形になったガイが険しい顔で苦痛の声を上げる。
「っ、何しやがる」
「その技は効果の割に消耗が激しい。パーティーが分断された今、出来るだけ体力や精神力は温存しておくべきです」
そう口に出すと、意味を理解したらしい彼は表情から険しさを幾分消した。
得体が知れない青年ではあるが、こういった聡い所は嫌いではない。――尤も、それが警戒すべき要素でもあるのだが。
「分かった。この程度の手当てなら自分で出来る」
だから離せ、というガイの言葉を無視して強引に手当てを始める。
出血自体は酷いものではなく、圧迫していればじきに止まる程度の物だった。
「離せと言ってる」
「中途半端な手当てのせいで迷惑を被るのは御免ですから」
ガイが何か言葉を発しようとしたのを遮って続ける。
「借りを作るのは好きではないんです。これで返させて貰いますよ」
すると小さく舌打ちする音が聞こえた。珍しいことだが周りに他の人間がいない今、私相手に気を使うつもりは無いという事なのだろう。
不服そうな顔を横目で見ながら、私が気付かないとでも思っていたのだろうかと思う。ルーク辺りならばともかく。
最後の攻撃は、普段のガイであれば避けられただろう。だが彼は避けずにこの傷を負っている。その際の配置は敵とガイ、そして詠唱中の私がほぼ一直線上に並んでいた。とすれば彼が攻撃を避けなかった理由はひとつしかない。
「オレだって迷惑を掛けられるのは御免なんでね」
今回はアレが一番良い方法だったのだとガイは言った。確かにそうだ。至って真っ当な判断だと戦闘経験のある者なら言うだろう。
だが、庇われたことも、それを隠そうとされたことも癪だった。アンチフォンスロットを受けた身ではあるがこの辺りの敵相手にどうにかされる程弱っては居ないし、周りに対して節穴の様な眼を持ってもいない。
彼の判断が最善でなくとも妥当であると理解しているというのに、気持ちは苛立つ。冷静に考えれば異常な程に。
「奇遇ですね。残念ですが」
「本当にな」
お互いに嘆息し、短い言葉を交わした所で手当てが終わった。
ガイが確認をするように腕を回し、患部に手を当て、右掌を握っては開く動作を何度か繰り返す。
「礼を言うよ」
「借りを返したまでです」
互いに立ち上がり、簡単に身の回りを整えた。
生憎ホーリィボトルの持ち合わせはなく、極力戦闘を避けるように進む以外回避する方法はないのだ。その為にも戦闘を行った場からは早々に立ち去るに限る。
「こういうモンは普通受け取っておくもんだろう」
「生憎不必要な物は受け取らない主義でして」
「あー、そうかい」
軽口を叩きながら歩を進めた。早く他の者達と合流せねばなるまい。
苛立ちの理由について今は考えるべきでないのだと、それだけは何故だか確信していた。