「何か起きたら確実にオレを殺してくれると思ったから、安心出来たんだろうな」
茶菓子を出しながらそう口にするガイは何処までも穏やかだった。紅茶を口に運ぶ手が一瞬止まってしまったが、彼は気付いていないらしくその事に安心してジェイドは細く短く息を吐く。手が止まったのはその事実に驚いたからではなく、それをジェイドに告げて来た事が意外だったからだ。
ガイは時折こうして、生に執着しているのだと云う一方で死を望んでいるかのようなちぐはぐな事を口にする。或いはジェイドに理解出来ないだけでガイ自身の中では一貫性がある発言なのかも知れないが。
「それはまた酔狂な事ですね」
「自分でもそう思うよ」
苦笑するガイはやはり酷く穏やかだった。浮かべる表情も、纏う空気も、彼を構成する全てが柔らかく優しいものに感じられる。先の言葉が性質の悪い冗談にしか思えない程に。
だからこそ、その発言が紛れもない真実であるのだとジェイドは悟る。
ガイがこの手の冗談を好まないという事もあるし、何よりもガイがジェイドにこんな嘘を告げる必要性がない。
そして、ジェイドにはそれを裏付けるようなガイの行動に心当たりもあった。
戦闘時や非常時――例えば得体の知れない薬品に侵された場合等――における自己犠牲、少し調べればすぐに事実が突き止められてしまう程度にしか偽らなかった素性、会話の端々に覗かせていた真実。
今の彼の言葉が嘘や杞憂であれば良い、と思わないことも無い。
ガイが自ら死を選ぶような人間でないとジェイドは思っている。確信していると言っても良い。だが、だからこそガイが時折会話や行為の端々に覗かせる自己破壊願望のようなものに危うさを感じるのも確かだった。
「――何が起きるか分かりませんし、貴方から目を離せませんねぇ」
「おいおい、もう何も企んじゃいないって」
「どうですかねぇ」
本音を少しだけ滲ませて揶揄えば、ガイは「信用ないなぁ」と苦笑いをする。
信用をしていない訳ではない、強いて言うなれば心配なだけだ。と内心で言葉にして、ガイを失い難いと思っている自分の心に漸くジェイドは気付く。
妙に彼の世話を焼くのはそういう事なのか、とひとり納得しているとガイが声を掛けてくる。
「どうした?」
「いえ、貴方が淹れる紅茶は美味しいという事実に改めて気付きまして」
「嘘くさいな」
「おや、嘘偽りのない本心ですよ」
「そういう言葉が既に嘘くさい」
容赦ない(が無理もない)ガイの言葉に、今度はジェイドが「信用ありませんねぇ」と口にする。
それは信用とは別だろうという反論に言葉を返しながら、例えガイがその心内にどんな願望を抱いていようとも最悪の展開に至る前に引き止められるように在りたいものだ、とジェイドは思った。