この感情が描く軌跡を知らない

 不思議なものだな、と思う。
 屋敷にはそういう趣味の人間も居たし、そういう世界があるのも知っていた。だがそれはあくまでガイ自身とは関わり合いのないものだと思っていたし、そうであるように努めてきたのだ。
 それでも不本意ながら男同士で『そういう雰囲気』になった――なってしまった事もある。しかしその時は気付かぬ振りをしてどうにか空気を変えて回避したし、それ以来は出来る限り『そういう雰囲気』になることを避けるようにしてきた。
 勿論、直接誘いをかけられても固辞して来た。女性に近付けぬとはいえ、そちらの趣味はないのだ。
 だが今自分はジェイドと『そういう雰囲気』になり、あまつさえそこから先の行為を受け入れている。
 男同士でどうこうする趣味はない筈なのだが、ジェイドとする事やジェイド本人に対して嫌悪感や不快感はない。以前誘いをかけられた時には確かに感じたものを今感じないのはどうしてだろうか。
 ジェイドが女性的な顔や身体をしている訳でもなければ、以前の男が取り立てて不細工であったという訳でもない。二人ともどちらかといえば美形と称される部類だろう。
 だというのに片方は受け入れ片方は拒否するのは何故だろう、自分の事ながら解らないものだなとガイは思う。付き合いの長さの違いかとも考えたが、どうも違う気がした。
「何を考えているんですか」
 唇を触れ合わせるだけのキスの後、ジェイドの声が上から降って来る。大して身長の変わらぬ男の声が上から聞こえるのは、ガイがジェイドに押し倒されているからだ。
「大佐の事だよ」
 厳密には違う気がするが、間違った事は言っていないだろう。ガイは口元に笑みを浮かべながらそう口にしたが、その回答が気に食わなかったのかジェイドは僅かに不服そうな顔をした。
「貴方は時々何を考えているのかよく分かりませんね」
「アンタにも分からない事があるんだな」
「分からないことばかりだから知りたくて、調べるんですよ」
 そう言うとジェイドは再びキスをしてきた。瞳を閉じてガイは静かにそのキスを受け入れる。
 二度キスをしても、ガイは自分の気持ちが分からなかった。
 嫌ではない。けれど、好きという訳ではないように思う。
 これがジェイド以外の誰かであったなら。
 大人しくキスを受け入れるなんてことはしていないだろうと思う。それに関しては断言できる。そもそもこんな体勢に持ち込まれまいと抵抗するし、それでも事に及ぼうとするのなら間違いなく相手に対して攻撃を加えているだろう。
 ならば何故、相手がジェイドだと抵抗をしようともしないのだろうか。考えてもガイにはやはり分からない。
 そして、自分自身にこんな甘いキスをして来るジェイドの考えも全く分からなかった。
 或いは、分かろうとしていないのかも知れない。少なくともガイは今のお互いに関して、ジェイドが云うように「分からないから知りたい」とは思ってはいなかった。思ってなどいない、筈だ。
 ただ静かに、普段のジェイドから受ける冷酷な印象とは程遠い、酷く優しいキスを受け入れる。
「…拒否しないんですね」
「嫌じゃ、ないもんでね」
 そう告げると、ガイはジェイドの背中へ腕を回した。
 今はそれだけで十分だろうと思う。それ以上の理由など、今は必要ない。
 言い訳のようにそんな事を考えて、何かから逃げるように今度はガイからジェイドへキスをした。