血の臭いが広がる、元は白かったのであろう部屋。
マルクトの軍服に身を包んだ兵士達が死体やかつて身体であった破片を運び出し、生き残りを拘束している。
その中に、彼等は居た。
一方は酷く傷付いており、最早自分の意思で身体を動かすことすら侭ならなかった。息をする度にヒュウヒュウという耳障りな音が聞こえる。
もう一方は、死にかけている一方の身体を大切そうに抱えてその場に佇んで居た。青い服が血を吸ってどす黒く変色しているが、それらは殆ど全てが返り血であり、自身に酷い怪我は無い。
「ごめんな。…アンタを、置いて、いっちまう、みたいだ」
まるで怪我など負っていないかの様にガイが微笑った。その笑みは長い使用人生活で染み付いてしまっている苦笑の形をしていたが、それでもその笑みはどこまでも柔らかい。もう彼は、痛みすら感じていないのだろうか。
「そのようですね」
釣られて微笑みながら、ジェイドが言う。ガイの放った永久の別離を意味する言葉はすとんとジェイドの心に落ちた。それは正しい場所に収まったパズルのピースのように整然としており、不快感など一切伴わない。不思議と穏やかな気持ちだった。このままガイは死んでしまうのだろうに。
「寂しい思い、させちまう、かな」
「心配しないで下さい。私は大丈夫、ですから」
「そっ、か。――なら、…良い、んだ」
微笑いながら最後にそう呟いてガイは逝った。まるで眠るように。安らかとはきっとこんなことを言うのだろう。
彼が苦痛に喘ぎながら逝ったのでなくて良かったと、自身の腕に抱かれたままもう目を開けないガイを見て、ジェイドは思う。それが、十日前のことだ。
十日が経った。十日の間に事後処理や生き残りへの尋問、現場検証が行われた。一部は現在も引き続き行われているが、全てが終わるのも時間の問題だろう。
そしてガイの葬儀も、十日の間に済まされた。葬儀にはガイの死を悼み沢山の人々が訪れ、若い伯爵の早過ぎる死を悲しんだ。彼等の嘆きを見れば彼を直接知らぬ人物であっても、如何に彼が人好きのする人物であったかが分かるだろう。
かつての旅の仲間も、訃報に驚き戸惑い未だ信じられずにいるようだった。それでも、ガイが死んだことは紛う事のない事実である。それをそうだと認識すると、皆が優しい兄貴分であった彼との永久の別れを悲しんだ。ガイはやはりあのパーティの中でも慕われていたのだ、と今更ながら実感する。ルークなどは溢れる涙と嗚咽を隠そうともせず、何故と誰にでも無く問うていた。その言葉に運が悪かったのだと返し、瞬間的に頭に血が上ったらしいルークに殴られたのは記憶に新しい。
ガイが死んで、十日が経った。事後処理などに追われバタバタしていた軍部内も、落ち着きを取り戻し始めている。同じようにジェイドも普段の生活を取り戻しつつあった。たった一つ、ガイが居ない事を除いて、今迄と何ら変わりのない日常を。