第一印象は、最悪とまでは行かないがあまり良くなかった。信頼するに足りる人物であることは程無く分かったが、腑に落ちぬ言動などから感じる警戒心が緩むことは一向に無く、結果彼を信用することは出来なかった。
それはお互いにそうだった様で(事ある毎、しかも影に日向にカマをかけられ続ければ嫌でも分かるが)、表面上仲の良いように見せ掛けていた時も水面下では腹の探り合いをしていた程である。
年齢のことを抜きにしてもこんな奴とは一生かかっても友人にはなれない、良い所で仲間…つまりは現状維持だろうと、思っていた。
――にも関わらず、現状は如何だ。仲間以上になり得はしまいと思っていた人間と、今や自分は恋仲なのである。そのことに別段不満がある訳でもないが、つくづく人生何が起こるか分からないな、と思う。
何とは無しにそんな事を話の流れでポツリと零したガイに「えー、そうかなぁ」とアニスが返した。
「ガイは意外に思ってるみたいだけど、第一印象が悪かったって夫婦とか恋人って結構多いんだよ?」
サラリとアニスが放った恋人という言葉に気恥ずかしさを感じてほんの少し顔を顰めながら、それでも若干の好奇心から「そうなのかい?」と聞き返す。
「ほら、第一印象が悪いと相当の事が無い限りそれ以上嫌いにはならないじゃん?だからじゃないの?」
まあ一目惚れっていうのもあるにはあるけどねー。とアニスが言い、その話題はそれきりになった。始めは意外に思ったが、アニスはガイ達の色恋というものに関しては至って淡白だ。言ってしまえば所謂イロモノである男同士の恋愛に興味が無いのか単にジェイドが怖いからなのかは分からないが、深入りする訳でも無くかといって茶化す訳でも邪険にするでもないアニスの態度には内心とても助けられている。
兎も角、それは彼等にとって日常の何気無い会話の一つであった。
そんな何気無い会話のやりとりを覚えていて、かつジェイドに問いかけたくなったのは、“何となく”ジェイドの回答が気になったからだ。
何より、あからさまに疑いをかけ腹の探り合いをし嫌味を言い続けて来た相手だというのに、何故告白などする気になったのか(そう、ジェイドがガイに告白をしたのだ。意外過ぎる事実だがそれについての言及はまた別の機会にしておこう)は以前より気になることではあった。
「…で、如何なんだ?」
「如何もこうも。まあ確かにアニスの言ったことは一理有りますが」
片手間に(どちらが片手間なのか分かったものではないが)音機関を弄りながら「へーやっぱりそうなんだ」と気の入らない返答をするガイの顎をついと持ち上げ、読んでいた本を脇に置いてからジェイドが尋ねる。
「貴方は如何なんです?」
「へ?」
「先程貴方が私に尋ねたのはそのまま私から貴方への疑問にもなります。何故そういった関係だった私からの告白を受けたんです?」
にやりとでも擬音の付きそうな胡散臭い笑みを浮かべながらジェイドが言う。
「オ、レは…。――っていうかアンタ、オレの質問に答えてないだろ!」
旦那が言うまでオレも言わないからな!と宣言され、流石に誤魔化されないかとジェイドは苦笑する。
然してずれていない眼鏡の位置を直しながら、言葉を発する。
「そうですねぇ…、貴方の言う通り始めは警戒していましたがね、そうして見ている内に段々と興味が湧いて来まして。憎い筈の相手に優しい笑みを浮かべていたり、女性恐怖症であるにも関わらず女性に優しかったり。それで、まあ、結論として貴方に好意を抱いているのではないかという考えに至ったんですよ」
「どうしてそういう考えに至ったのかはよく分からないが、まあ分かった」
「さあ、次は貴方の番ですよガーイ」
理由を告げている時の僅かに気恥ずかしそうな表情は何処へやら、いつもの胡散臭い笑顔を取り戻したジェイドはここぞとばかりにガイへにじり寄る。
「あー、その、だな…。まあ、多分、アンタと一緒だ」
「一緒、とは?」
向けられる人の悪そうな笑顔に、コイツ絶対オレの口から言わせる気だと悟ったガイは、意地を張るのを早々に諦め、告げる。
「最初は警戒していたけど、アンタ見てる内にそんな悪い奴じゃないと思い始めたんだ。キツイこと言うけどそれは何ていうか親心的なものなんだって分かったし、案外らしくないような所もあるし。で、その、告白されて嫌じゃなかったから、アンタの事が好きなんだろうな、って」
「そうですか、それはそれは」
光栄なことですねぇと呟いてジェイドは満足そうに微笑んだ。微笑む、と言ってもやはり胡散臭いと言われるそれだったが。
「だー、あーもー、変なこと聞くんじゃなかった」
「私はまた聞かれても構いませんよー?」
顔を赤くしてうつ伏せに倒れこんだガイにニヤニヤとジェイドが告げる。
そんなジェイドをジト目で見ながら、やっぱり人生何が起こるか分かったモンじゃない、とガイは思った。