眠れぬ夜に

 眠れないのだ、と告げられたのは深夜近い刻限だった。
 連日遅くまで――少なくとも、自分が眠りに就くまで(横になり目は瞑っていたが)寝ていないらしい事にはとうに気付いていたので告げられた事実に驚きはしなかったが、それをガイが自発的に告げたこと自体が意外だと思う。
 それを感じ取ったのか、ガイはまるで言い訳のように続きの言葉を紡いだ。
「このままだと、みんなに迷惑をかけかねないと思ってね」
 つまりは精神的によりも肉体的に限界を感じ始めているということか。それにしても無駄な程に我慢強いガイがそう言い出すのだから、かかっている負担が相当であることに違いはあるまい。
 立ち上がり、パーティー用とは別の麻袋から薬を取り出す。
「薬はありますが、あまりお勧めはしませんよ」
「何故だい?」
 コトリとサイドテーブルに小さな薬瓶を置き、告げる。
「これは、端的に言うなら頭の働きを鈍らせる薬です。考えることを強制的にストップさせる事で、結果強制的に肉体を眠りに就かせる。ですから、寝た感覚はあまり得られません。――つまり、精神的な負担の軽減は期待出来ないということです」
 睡眠というのは単に肉体的な休息の為のものではない。精神的にも、頭を休ませるという意味で人間は睡眠という行為を必要とするのだ。それだけではなく、薬では今ガイ自身を病ませている原因の解決にはならない。暗にその事を伝えるとガイはぽつりと、ジェイドには隠し事は出来ないな、と自嘲気味に呟いて告げる。
「…眠れるなら、それで構わない」
 言外に、肉体的に何とかなればそれで良いと云う。それはあまりに自虐的過ぎるのではないかと思ったが、それを言った所で自分には何も出来ない。そのこと十分に理解していたから、結局そのまま薬を与えたのだが。
「限界だと思ったら素直に伝えなさい。誰も迷惑だなんて思いませんよ」
 一言だけ、そう付け足して。
「…分かってる」
 目を伏せて、ガイは静かにそう言った。
「夜中に悪かったな。おやすみ」
「おやすみなさい」
 そしてガイは部屋を出て行った。
 ドアを閉める瞬間に呟かれた「すまない」の一言に溜め息を吐き、ドアを見つめる。
 どうしてもあの子供は甘えるということが出来ないらしい。いつか――いつかで良い、彼が何の抵抗もなく誰かに甘えられるようになれば、と思う。
「――さて、私もそろそろ寝るとしましょうかね」
 一瞬過ぎった、その相手が自分であれば良いという思いに、気付かないフリをして。