くえすちょん?

 眼前に居るのは白い花束を持って目を丸くした軍服の男である。
 そして此方は此方で甘い匂いをさせる袋を持って目を丸くしていた。
「なんですかそれは?」
「なんだいそれは?」
 奇しくも抱いた疑問まで同じだったらしい。
 同じタイミングで発された疑問に、これまた同じタイミングで答えを返す。
「今日はバレンタインデーでしょう」
「今日はバレンタインデーだろう」
 同じ答えだというのに疑問は解決しない。
 不可思議な事態に、とりあえず中で座ろうじゃないかと室内へ入ることを選択する。
 このまま入り口で問答していても埒が明かない事だけは確かだ。
「それはチョコレートですか」
「そっちは花束だな」
 とりあえずお茶の用意をしながら、お互いの持ち物を確認してまた問う。
「何故バレンタインデーにチョコレートなんです?」
「何でバレンタインデーに花束なんだ?」
 さも当然のように言い放つお互いに、お互いの疑問符は増えるばかりだ。
 バレンタインデーだという認識は共通している。だというのに其処から先がいまひとつ理解できない。
「バレンタインデーには花束でしょう」
「バレンタインデーにはチョコだろう」
 向かい合ってソファーに腰掛け、温かい紅茶を飲む。
 見える景色も紅茶の香りも普段と何一つ変わらないのに、違和感だけがそこにあった。
「そんなの初耳ですよ」
「こっちだって初めて聞いた」
 暫く無言の状態が続く。
 時計の針が動く音や、カップとソーサーが触れ合う音、或いは廊下から聞こえる音だけが部屋に響いている。
 おかしいのは相手であり自分は間違ったことなど言っていないという自信があるのだが、何だか煮え切らない。
「…まあ、何はともあれ受け取ってください」
「これも、仕事の合間にでも食ってくれ」
 色々と気が削がれたのか、半ば事務的に花束とチョコレートを贈り合う。
「何はともあれ、私達は両思いということで良いんですよね?」
「付き合ってるしプレゼントもしてるし、良いんじゃないか?」
 愛を確かめる日というイベントに乗っかったというのに、確証が持てないのも不思議な話だ。
「チョコレート、ありがとうございます」
「花束もありがとうな」
 ともあれ、お互いを好いていることに間違いはなさそうなのでこれで良いか、とも思う。
 しかし何故この品なのだろう、という疑問は結局分からないままになりそうだ。


アビスにだって異文化交流あって良いじゃない!という思いから出来た異文化バレンタイン話。
設定的には此方と同じになっています。